研究領域 | 植物の力学的最適化戦略に基づくサステナブル構造システムの基盤創成 |
研究課題/領域番号 |
21H00364
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
佐藤 良勝 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任准教授 (30414014)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 植物構造オプト / 細胞壁 / 先端成長 / マイクロ流体デバイス / ライブイメージング |
研究実績の概要 |
植物細胞は高い膨圧と細胞壁成分による壁圧の力学的バランスを維持して成長する。空間構造学の言葉で置き換えるなら、植物細胞は持続可能な可塑的モノコック構造(応力外皮構造)と捉えることもできよう。我々は、植物細胞が自分の細胞サイズ以下の外界のミクロ構造にも柔軟に反応し、細胞サイズを狭めて成長できることを明らかにした(Yanagisawa et al. Sci Rep 7 1403)。しかし、このようなミクロな障害物を植物がどのように認識、応答しているかはほとんど分かっていない。本研究では、植物の先端成長細胞の力学的可塑性に着目し、力学的環境応答分子、近赤外蛍光色素を活用した蛍光ライブイメージングなどの技術を駆使して、植物先端成長細胞の力学的最適化応答機構の解明を目的としている。 細胞サイズ以下のマイクロ流路製作については、我々は細胞局部的な機械的刺激を確実に与える構造を配し、最適な流路幅や流路間距離を評価できるマイクロ流体デバイスの設計および作製を行った。光リソグラフィなどMEMS技術が必須な本過程はこれまで分析化学者に頼ってきたが、緊密な議論と教育訓練を繰り返すことにより、現在では解析内容に合わせたマイクロ流体デバイスを独自に設計し作製できるまでになった。また、植物の外部空間認知と細胞内応答過程をモニターするため、微小管可視化株とカルシウムイオンセンサー導入株を用いて実験を進め、狭小領域での動態観察に成功した。さらに、近赤外細胞壁染色色素を用いた二光子励起イメージングも可能になった。 力学測定に関しては、共同研究者らにより力学的環境変化に応答して蛍光色を変化させるFLAP分子のPDMSへの導入に成功したのの、生体毒性回避を図る過程で、強度的な脆さを生じた。マイクロ流体デバイス内で起きる植物先端成長細胞の力学的な性質変化の計測に関して検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロ流路作製技術は申請者の専門外であったが、分析化学者との共同研究から、我々が目的とする細胞サイズ以下の様々なマイクロ流路を、自身の研究室で作製できるようになったことは大きな進展である。また、植物の外部空間認知と細胞内応答過程をモニターするため、微小管可視化株とカルシウムイオンセンサー導入株を用いてライブイメージング解析は概ね順調である。ケミカルバイオロジーを専門とする化学者とともに開発した細胞壁染色色素については、ヒメツリガネゴケ、シロイヌナズナにおいて、細胞壁特異的な染色に成功しており、論文執筆に向けた準備を進めている。葉緑体追尾については、葉緑体外膜マーカー(OEP7)の可視化株を作成し、ライブイメージング解析を進めており、概ね順調である。一方、力学測定に関しては、有機合成化学を専門とする協力研究者との共同研究で作製した力学的環境変化に応答するFLAP-PDMSについては生体毒性回避を図る過程で、強度的な脆さを生じた。マイクロ流体デバイス内で起きる植物先端成長細胞の力学的な性質変化の計測に関する検討が必要である。以上から、全体的な進捗状況はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
細胞サイズ以下のマイクロ流路製作について、我々はさまざまな解析内容に最適化したマイクロ流体デバイスを独自に設計、作製する技術を確立し、いつでも本領域内に提供できるまでになっているため積極的に活用いただく。実際、本領域外の共同研究ではあるが、新たに作製したマイクロ流体デバイス(狭小流路)を用いた糸状菌(カビ)の菌糸の先端成長解析において、菌糸幅や系統分類上の近さとは無関係に、生長の遅い菌糸は狭小流路を通過できるのに対して、生長の速い菌糸は狭小流路を通過しにくいことを明らかにしている(Fukuda et al. 2021)。 ヒメツリガネゴケの植物の外部空間認知と細胞内応答過程の可視化解析については、昨年度に引き続き、カルシウムイオンセンサー導入株(宮城大学 日渡祐二博士提供)を用いて実験を進める。また、多喜グループとともに開発した細胞壁染色色素を用いた細胞壁形態変化の高感度検出の解析に取り組む。葉緑体追尾については、葉緑体外膜マーカー(OEP7)の可視化株を用いて、引き続きライブイメージングを行う。 一方、力学測定に関しては、力学的環境変化に応答して蛍光色を変化させる分子(FLAP; Flexible Aromatic Photoresponsive systems)については、生体毒性を生じたため新たな戦略が必要な状況にある。卓越した研究協力者との共同研究を通じて、マイクロ流体デバイス内で起きる植物先端成長細胞の力学的な性質変化の計測に関する検討を行う。
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