申請者らは、日本各地の様々な植生の林床に生育する150種以上の植物について、柵状組織細胞の形状および葉緑体の細胞内配置を調べ、細胞形状が光環境に適応していることを発見した。すなわち、直射日光の届かない林床にのみ生育可能な植物種の多くは、柵状組織細胞が逆円錐形であった。逆円錐形の細胞をもつ植物の葉構造は、一般的な植物とは異なり、細胞層が少なく、細胞同士の間に空間が多く存在することを発見した。柵状組織細胞や葉構造については古くから数多くの研究がなされているが、逆円錐形の細胞・省資源葉構造について体系的に解析した例はなく、構造上の特性については、調べた限り知見が存在しない。そこで本研究では、逆円錐形の柵状組織細胞に着目し、その構造上の生理学的意義と形成メカニズムの解明を目的とした。 同属内で異なる柵状組織細胞の形状を示す植物の葉のX線CTスキャン画像から、柵状組織細胞の3Dモデルを作成した。構築した3Dモデルを基に、実際の細胞質の屈折率に近い樹脂を鋳型に流し込むことで細胞の模型を作成した。作成した細胞模型を用いて、直達光と散乱光を模した光を照射し、円柱形の模型と逆円錐形の模型の受光量を比較した。直達光を模した光を照射すると、受光量の差は模型底面側で大きくなり、模型底部では逆円錐形の方が円柱形に比べて約6倍高くなることが分かった。次に、散乱光を模した光を照射した場合、模型周縁部の全ての箇所において、逆円錐形の模型は円柱形の模型に比べて2倍以上受光量が高いことが分かった。これらの結果から、逆円錐形の細胞形状は円柱形の細胞形状よりも細胞全体での受光量が高く、光を効率的に受け取りやすい構造であることが明らかとなった。
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