花芽分裂組織に物理的圧力を与える新規実験系を用いて、オーキシン応答(DR5)、オーキシン排出キャリア(PIN1)、そして張力応答(TUB6 NEK6)それぞれを可視化するマーカーラインを対象とした解析を行った。その結果、物理的圧力を与えた位置でのオーキシン応答が低下し、与えた部分を含めた花原基周縁部でのPIN1の発現低下も確認された。このことから、物理的圧力を与えることによってその部分を中心に花原基周辺部へのオーキシン輸送が一時的に遮断され、その後の花形態の変化が誘導されている可能性が示唆された。また、物理的圧力を与えた位置でのTUB6の発現低下が確認された一方で、NEK6の発現低下は認められなかった。この結果から、物理的圧力を加えることによって表層微小管が脱重合し、表皮細胞での張力が一時的に低下することが示唆された。TUB6の発現低下が生じた花原基ではその後の形態形成に変化が生じた。 こうした植物を用いた研究結果から、花芽分裂組織では物理的圧力によって剛性(表皮細胞の張力)が不均一化することによって形態変化が生じていることが予測された。そこで、オーゼティックを応用して不均一な剛性分布を持つ2.4m×2.4mの二次元膜構造物(金属板構造物)を作製した。オーゼティックとは、ある方向に力を加えて伸長させた時、それに直交する方向にも拡大するという性質で、切り紙細工のように平面に多数の切込みを周期的に入れるパターンによって実現できる。この金属板構造物をモックアップし、等分布荷重をかけて懸垂させることによって、花芽分裂組織における器官形成をある程度模倣した曲面を得ることができた。さらに同じ手法を三次元に拡張し、花原基の形状により近い球体形の模型を作成した。これによって花発生の過程をより正確に再現するとともに、内部に照明を入れることで構造物としての活用も検討した。
|