研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
21H00379
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鎌形 清人 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (90432492)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 液液相分離 / タンパク質 / ペプチド / 凝集体 / 合理的設計 |
研究実績の概要 |
液液相分離するタンパク質は、密集した会合状態を形成し、疾患の原因となる不溶性の凝集体に成長する。この密集状態では、タンパク質中の特定の立体構造を持たない天然変性領域が、かたい分子間βシート構造(不溶性の凝集体)を形成する。このことが神経変性疾患の原因と考えられ、このかたい構造を壊すには、力学エネルギーが必要である。本研究では、ペプチド設計技術と化学・力学エネルギー変換タンパク質を融合し、凝集体をほぐす人工タンパク質の合理的設計を行った。まず、相分離タンパク質p53を標的として、凝集の原因となる天然変性領域に結合するペプチド(8種類)を設計した。滴定実験により、設計したペプチドのすべてが標的のp53に結合することを確認した。続いて、2種類のペプチド付き人工タンパク質を設計し、大腸菌による発現系を構築した。電気泳動で発現の確認をしたところ、ペプチド付き人工タンパク質の発現が確認できないことが分かった。そこで、N末端にSSSVタグを入れて改善を試みたところ、ペプチド付き人工タンパク質の発現量を増やすことに成功した。しかし、ペプチド付き人工タンパク質の一部が切断されていることも分かった。そこで、N末端に可溶性タグのマルトース結合タンパク質を融合したところ、ペプチド付き人工タンパク質を切断されずに発現できることが分かった。さらに、液体クロマトグラフィーを用いて、ペプチド付き人工タンパク質を精製する方法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、(1)凝集性のタンパク質に結合するペプチドの設計・実験的検証、(2)凝集を抑制する人工タンパク質の設計・作製、(3)人工タンパク質は凝集体をほぐすことができることの実験的検証、(4)人工タンパク質の一分子機能解析、(5)分子動力学シミュレーションによる理論的な考察から構成されている。当該年度は、(2)まで進めることができたため、順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、ペプチド設計技術と化学・力学エネルギー変換タンパク質を融合し、凝集体をほぐす人工タンパク質の合理的設計を行い、その発現・精製系を確立した。今後、設計したペプチド付き人工タンパク質が凝集体を抑制できるかを実験的に検証する。 【人工タンパク質は凝集体をほぐすことができることの検証】まず、モデルタンパク質p53の液液相分離状態に、ペプチド付き人工タンパク質と分子レールDNAと化学エネルギーATPを加えて、ペプチド付き人工タンパク質が相分離状態を抑制するかを検証する。この検証実験には、微分干渉顕微鏡や蛍光顕微鏡を用いる。さらに、相分離状態を抑制できた場合、ペプチド付き人工タンパク質、分子レールDNA、化学エネルギーATPを一つづつ除き、同様の実験を行うことで、相分離状態の抑制に化学エネルギーが使われているか、また、どの構成因子が相分離の抑制に関与するかを調べる。続いて、固体状の凝集体形成の条件でも、同様の実験を行い、ペプチド付き人工タンパク質が固体状の凝集体形成を抑制できるか、そして、凝集体形成の抑制に化学エネルギーが使われているかを検証する。 【人工タンパク質の一分子機能解析】開発した単分子蛍光顕微鏡を用いて、人工タンパク質の構造変化が実際に凝集体をほぐすことに作用しているかを検証する。 【分子動力学シミュレーションによる理論的な考察】分子動力学シミュレーションを用いて、人工タンパク質が凝集体をほぐす過程を再現し、理論的な視点からその凝集抑制モデルを提案する。
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