研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
21H00385
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
細野 暢彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00612160)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多孔性金属錯体 / 高分子 / 複合材料 / 吸着 / 包接 / ネットワーク構造 / 架橋高分子 |
研究実績の概要 |
本研究では、ナノ空間を有する多孔性金属錯体(Metal-Organic Framework: MOF)と高分子を複合化させることで、筋肉の応答メカニズムを模倣した無機・有機複合体を合成し、新しい力学応答材料の実現に挑む。具体的には、MOFの細孔内へ高分子鎖が吸着される現象を利用し、吸着エネルギーを力学エネルギーへ変換するシステムの開発に取り組む。以下に掲げる項目に則して研究を展開する。 (1) MOF細孔内への高分子鎖の包接(吸着)による高分子ネットワーク構造の構築 (2) 高分子鎖の包接/脱包接(吸/脱着)による収縮・膨張挙動の誘起 (3) 吸着エネルギー⇔力学エネルギー変換効率の実測 これまでに項目(1)については条件検討を完了し、超長鎖高分子がMOF粒子を貫通しながら架橋した物理架橋ネットワークを有する新規複合体の合成に成功している。本年度は、用いる高分子の鎖長(分子量)およびMOF粒子のサイズが複合体の構造や物性へどのように影響するのかを詳細に調査した。結果、(i)目的とする架橋構造を得るためには高分子鎖長がMOF粒子サイズ以上である必要があること、(ii)MOFへの貫通構造により高分子の結晶化が著しく妨げられ、複合体の力学物性および熱物性に大きな違いが生じることを見出した。さらに、MOFへの超長鎖高分子の吸着速度について調査したところ、従来の同様の研究の報告例よりも数桁早い速度で高分子鎖が細孔へと吸着されることがわかった。これは、本MOFが供する細孔の次元性や細孔内の環境が大きく影響している可能性がある。今後、その熱力学的なメカニズムについて検討するとともに、今回測定された安定化(吸着)エネルギーを力学エネルギーへと変換する手法の開発を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、MOFへの高分子鎖の吸着および物理架橋ネットワークを実現するために必要な条件を洗い出し、適切な鎖長やMOF粒子サイズについて有用な知見を得た。その過程で、複合体の力学物性や熱物性が複合構造(高分子のMOF粒子への貫通構造)に大きく影響されることを見いだし、その関係を整理することに成功している。また、高分子鎖がMOF細孔へ侵入する際の速度についても予期していない発見があった。これらは、次年度以降の力学物性やエネルギー変換に関する検討に有用な知見となる。したがって、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、MOFへの高分子吸着速度やエネルギーの詳細な測定を行い、吸着メカニズムの解明およびエネルギー変換法の開発について検討する。具体的には、熱量測定装置を用いた吸着熱測定、および原子間力顕微鏡(AFM)を用いた一本鎖引き抜き試験(MOFの細孔から吸着した高分子を直接引き抜く時にかかる力を計測)を行い、吸着エネルギーを定量的に見積もる。得られた結果を、力学試験で得られた結果と合わせて考察し、吸着エネルギーと力学エネルギーの変換効率等について考察する予定である。
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