哺乳類内耳に存在する外有毛細胞は、膜電位に応じて細胞長を伸縮させ、音信号を増幅している。外有毛細胞による電気から運動へのエネルギー変換効率は、既存の人工圧電素子の約1万倍と非常に高い。この高効率エネルギー変換を担うプレスチンは、ATPなどの化学エネルギーを利用する多くの生体発動分子とは異なり、電気エネルギーを直接利用して動く生体分子モーターである。我々は、プレスチンが電位変化を感受する仕組み、およびそれをいかに構造変化につなげるかについて研究を進めてきた。これまでプレスチンの属するSLC26陰イオン輸送体ファミリーでは、プレスチンのみが膜電位を感受しうると考えられてきたが、実は他のSLC26タンパク質にも電位感受能があることを我々は発見した。 本研究において、我々は培養細胞などに発現させたプレスチンなどSLC26タンパク質の構造変化動態をハイスループットに可視化する計測系の構築に成功した。プレスチンをはじめとするSLC26タンパク質の構造変化を可視化する計測系を立ちあげるうえで、大きな障害となっていた細胞膜へのタンパク質局在効率が低いという課題にたいして、我々はSLC26タンパク質の網羅的な発現解析から、最も効率よく細胞膜へと局在するシグナル配列および培養細胞株を見出し、この課題を克服した。さらに、この手法で発現させたプレスチンは、外有毛細胞での発現と同様に、細胞側面に密集しており、細胞極性が外有毛細胞の大きな伸縮ダイナミクスに与える影響についても、検証可能になった。本手法を用いることで、プレスチン以外のSLC26タンパク質も実際に電位変化に応じた構造変化を示すことが明らかとなり、膜内でのタンパク質密度が圧電効率に与える影響も精査することに成功した。
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