研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
21H00388
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上野 博史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (10546592)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子機械 / 進化分子工学 / マイクロデバイス |
研究実績の概要 |
本研究ではATPの化学エネルギーを力学的な回転運動へと変換する回転分子機械(発動分子)F1-ATPase を新規進化分子工学的手法により分子進化させ、高活性分子機械を創成することを目的とする。具体的には、我々がこれまでに確立してきたマイクロチャンバーデバイス内でのon-chipスクリーニング技術をさらに拡張し、F1-ATPaseに適応することで、高活性な進化したF1-ATPaseを創成する。デバイス内でのスクリーニングを実現するにはF1-ATPaseの反応のデバイス内での検出が必要になる。これまでにATP分解で生じるADPを酵素カップリング反応により蛍光物質へと変換し、デバイス内で検出する新規方法を開発した。その結果、F1-ATPase1分子のATPase活性のデバイス内検出を実現した。この実験系は、ADPを産出する様々な酵素に適応可能であり、kinaseやphosphataseの1分子レベルのデバイス内活性検出にも応用できることが分かった。さらに酵素カップリング反応に用いる酵素を一部変更することで、ATP合成活性の検出にも成功した。この系を用いれば、ATP合成活性の時間変化を酵素1分子レベルで計測することができる。またF1-ATPaseの1分子回転観察と無細胞タンパク質合成系を組み合わせた新規on chipスクリーニグ技術を開発した。この系は、配列既知のDNAライブラリを用いてF1-ATPaseの無細胞合成を行った後、on-chipに転写し1分子回転観察を行うもので、細胞を全く使わずにDNAライブラリからのF1-ATPaseの合成・1分子回転計測を数時間で実現することができる。この実験系により回転速度の速い分子のスクリーニングデモ実験にも一部成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ATPase反応のon-chip計測技術の開発に成功したところ、様々な酵素のon-chip計測への拡張性が考えられたため、そちらの検証を行っていた。そのためデバイス内でのタンパク質精製系構築について、当初予定よりも着手が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、デバイス内でのタンパク質精製システムを開発する。具体的には、ゲル化ドロップレット等を用いて、ドロップレット内での1DNA からのF1-ATPase合成および溶液交換による精製を実現する。これには超低融点・超低ゲル化温度アガロースを溶液に加えてドロップレットをゲル化させ実現する。またチャンバー表面をNi-NTA修飾しておき、F1-ATPaseに導入したHis-tagとの相互作用で精製を実現する。この精製系と酵素カップリング法による活性計測系を組み合わせ、最終的には、活性の低い変異F1-ATPaseをコードするDNAに野生型F1-ATPaseをコードするDNAを少量まぜたスクリーニング実験を行い、活性の高い野生型をコードするDNAを回収可能か検証し、スクリーニングシステムの性能を評価する。さらに変異DNAライブラリを用いた高活性スクリーニングを行い活性の上昇したF1-ATPaseを得ることを目指す。
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