研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
21H00394
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小池 亮太郎 名古屋大学, 情報学研究科, 助教 (20381577)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 構造バイオインフォマティクス / データベース / 構造機能相関 |
研究実績の概要 |
ATPアーゼはATPの加水分解から得られるエネルギーを利用し,さまざまな分子機能を実現する蛋白質の総称で,生体発動分子の好例である.ATPアーゼがどのように機能を実現しているのか,そのメカニズムを理解するためには,ATPアーゼの構造変化を明らかにする必要がある.ATPアーゼの構造変化,どの部位がどう動いているか,を明らかにすることで,機能するときにATPアーゼで何が起こっているのかを理解できる.生体内ではたらくさまざまなATPアーゼの構造変化を網羅的に解析し,ATPアーゼに特徴的な構造変化を明らかにする.また,ATPアーゼの機能に応じて,メカニズムがどう違うのか,構造変化と機能の相関関係を調査する. 網羅的な解析を行うために,ATPアーゼの構造や機能に関するデータをできるだけ大規模に収集した.データの収集には本研究者が開発したATPアーゼのデータベースを活用する.このデータベースから,約350種のATPアーゼに関するデータを取得することができた.これらのATPアーゼには,ATP合成を行うもの,分子輸送を行うものなどが含まれていた.分子機能の観点から多様なATPアーゼを含むデータセットを構築できた. また,収集したATPアーゼの構造変化に関する調査を行った.構造変化を網羅的に解析するために,本研究者らが開発した独自プログラム,Motion TreeやSCPCを活用した.ATPアーゼの中には複数の蛋白質からなる複合体として働くものも多い.これらのプログラムを組み合わせることで,複合体として働くATPアーゼの構造変化の網羅的な解析を実現した.その結果,7割程度のATPアーゼでは何らかの構造変化が起こることが確認できた.また,構造変化が起こっているものでは,動いている部位を特定することができた.これにより,ATPアーゼが機能するさいに起こっていることが明らかになる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,ATPアーゼの構造変化を網羅的に解析し,構造変化と機能の関係を明らかにすることを目的とする.そのため,次の4つの作業工程で研究を進める.(1)これまで開発してきたATPアーゼのデータベースから構造データを収集する.(2)集めたデータから構造変化解析の基盤となる構造ペアのリストを作成する.(3)構造ペアから構造変化を特定し,データ化する.(4)構造変化と機能との関連を調査する.初年度は(1),(2)を行った後,(3)に着手する,また,進行にあわせてデータベース化の作業を行う,という計画を立てた. 研究実績の概要で述べたように,約350種のATPアーゼのデータ収集を行った.収集したATPアーゼに関しては,構造ペアのリストを作成した.構造ペアに対して本研究者らが開発した独自プログラムMotion TreeとSCPCを適用した.これにより,あらかたのATPアーゼについて,構造変化のデータ化を完了できた.そのため,「おおむね順調に進展している」とした.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は昨年度に引き続きATPアーゼの構造変化のデータ化を進める.また,構造変化と機能との関連の調査を開始する.ATPアーゼの機能に関するデータは,これまで開発してきたATPアーゼのデータベースから収集を行う.この機能のデータに基づき,ATPアーゼをいくつかのグループに分類し,グループごとの構造変化の様子を調べる.このとき,構造変化部位のサイズや機能部位との関係に着目する.すなわち,ドメインのような比較的大きな部位の動きが顕著なのか,ループのような小さい部位の動きが顕著なのか,機能部位と近い部位,あるいは離れた部位,の動きが顕著なのかを調べる.網羅的な大規模解析を行うことで,機能グループごとに顕著な運動を統計的に明らかにする.それにより,各機能に必要な構造変化,すなわち分子メカニズム,がどのようなものかを調査する.
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