ATPアーゼはATPの加水分解から得られるエネルギーを利用し,さまざまな分子機能を実現する蛋白質の総称で,生体発動分子の好例である.ATPアーゼがどのように機能を実現しているのか,そのメカニズムを理解するためには,ATPアーゼの構造変化を明らかにする必要がある.ATPアーゼの構造変化,どの部位がどう動いているか,を明らかにすることで,機能するときにATPアーゼで何が起こっているのかを理解できる.生体内ではたらくさまざまなATPアーゼの構造変化を網羅的に解析し,ATPアーゼに特徴的な構造変化を明らかにする.また,ATPアーゼの機能に応じて,メカニズムがどう違うのか,構造変化と機能の相関関係を調査する. 昨年度は,各ATPアーゼでの構造変化の有無をまずは調べた.今年度は,複数の蛋白質からなる蛋白質複合体を形成することでATPアーゼとして機能するものに着目し,その構造変化が複合体に特有のものかどうかを調べる.まずは,昨年度に収集したデータから,複合体として機能するATPアーゼを抽出した.また,比較的近縁種由来のATPアーゼは冗長な結果を生みやすいことを踏まえ,1つのグループにまとめた.その結果,構造変化の解析が可能な複合体ATPアーゼを約100グループほど特定することができた.このデータを調べたところ,全体の6割のグループでは複合体特有の構造変化が起こっていることが分かった.ATPアーゼに限らずホモ2量体(最も単純な蛋白質複合体)の構造変化を調べたところ,複合体特有の構造変化を示すものは全体の2割程度であった.つまり,ATPアーゼでは,複合体であることを利用した構造変化,すなわち,複合体を構成する蛋白質が連動した運動,を起こすものが多いことが分かる.このことは,ATPアーゼ複合体が,単に蛋白質が寄り集まっているのではなく,その運動も連動するように構成されていることを示唆する.
|