研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
21H00402
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今田 勝巳 大阪大学, 理学研究科, 教授 (40346143)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | III型輸送ATPase / 回転分子モーター / 高速AFM / クライオ電子顕微鏡 / FliI / F/V型ATPase |
研究実績の概要 |
べん毛III型輸送装置の輸送ATPase複合体は、典型的な発動分子で回転モーターとして知られるF/V型ATPaseと似た構造を持ち、回転モーターと考えられるが未だ証明されていない。本研究は、F/V型ATPaseと似ているがホモ6量体を形成し、6カ所のATP加水分解サイトを持つべん毛III型輸送装置の輸送ATPase複合体の構造とATP加水分解による構造変化を解明することでATPで駆動する回転モーターの設計原理を明らかにすることを目的としている。べん毛輸送ATPase複合体の6量体リングは不安定でサブユニットが解離しやすいため複合体の構造解析が困難であったが、リングが安定に存在できる変異体、FliI 3Aが近年発見された。今年度は、この変異体の大量精製法を確立し、高速AFMによる観察とクライオ電子顕微鏡による撮影条件の探索を行った。FliI 3A変異体は、大腸菌で大量発現するとほとんどが沈殿した。しかし、輸送ATPase複合体を構成するFliHと共発現すると可溶性試料が得られ、しかもFliHを結合しない大量のFliIとFliHを結合した少量のFliIを別々に精製することに成功した。FliI試料にADP、またはATP、またはADP-AlFを加え、さらにMgの有無による集合体構造の違いを高速AFMにより観察したところ、FliIは3回回転対称をもち、条件の違いにより形態が大きく変化することがわかった。また、Mass photometry法を用いた会合状態の計測から、FliIは希薄状態ではATP添加により2量体を形成し、ATP加水分解を行うことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
6量体リングを安定に形成するFliI 3A変異体について、AFM観察やクライオ電子顕微鏡観察、X線結晶構造解析実験を実施可能な量が得られる精製法を確立した。次に、集合体形成条件をSECおよびMass photometry法により探索し、FliI 3Aが単量体・2量体・6量体の平衡にあることを明らかにした。精製試料にADP-AlF-Mgを添加してAFMで観察したところ、3回回転対称を持つ6角形構造が観察された。また、ADP-AlF添加試料では形態が変化した。さらにATP-Mg添加試料では3角形構造が観察され、6角形と3角形の構造転移も観察された。一方、クライオ電子顕微鏡観察では、当初の条件では試料密度が低く集合体の解離が多く見られたため、条件探索を進め、濃度条件等はほぼ定まった。しかし、構造多型が多く見られたため、構造状態を固定できる条件を探索している。
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今後の研究の推進方策 |
高速AFMを用いて各ヌクレオチド状態およびATP加水分解によるFliI 3A6量体の構造変化を高分解能で解析する。FliI 3Aの活性部位GluをAspに変えることで加水分解速度を落とした変異体を精製し、同様にAFM観察を行う。また、現在はFliIのみで観察しているが、F1ATPaseの回転軸に相当するFliJを含むFliI6-FliJ複合体試料を作成し、高速AFM観察、クライオ電子顕微鏡観察を行う。さらに、FliJにラベルを導入し、回転計測実験を行う。
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