研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
21H00409
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
住野 豊 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 准教授 (00518384)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自己組織化 / 自己駆動粒子 / 創発的群行動 / アクティブマター |
研究実績の概要 |
本研究計画では(i)粒子同士の「反応」,(ii)周囲環境の濃度場との「反応」で自己駆動能を得る実験系に関して研究を行った. 2021年度の顕著な成果は(i)粒子間の「反応」を用いた系において得られた.具体的には電気浸透流により相互作用するサイズが異なる2種粒子系を用いた実験系の観察とその数理モデル化である.本系では流動に起因する実効的な引力的相互作用が相手のサイズで決定されるため,相互作用の釣り合いが破れる.こうし相互作用が不均衡な状況を利用することで自己駆動するペアが生成することに成功した.更に我々は自己駆動するペアがノイズで生成・分解を繰り返すVicsekモデル的な自己駆動粒子として振る舞うことを数理的に解析した.また,自己駆動するペアとしての中間構造を利用することで,巨視的な粒子集団が非定常な離合集散を繰り返すことも実験で発見した.更に,以上の実験で観察された振る舞いを数理モデルにより数値的に再現した.このモデルによりペアレベルの運動から集団挙動まで共通して数値的に再現された.またペアが生み出す自己駆動能の特性だけを抽出した連続体モデルでも集団挙動が再現された. 非対称相互作用のもたらす自己駆動現象は,分子機械を集積させ機能を実現する上で系をプログラムする手法として有用であると考えられる.以上の粒子間の「反応」で自己駆動粒子が生成する系に関する議論を現在,論文として取りまとめている. 以上に加え,(ii)周囲環境と「反応」して運動を示す系を構築した.具体的には酸化チタン粒子に金を蒸着したヤヌス粒子を水相中に分散した系である.この系に紫外光を照射すると光触媒活性により生成する反応物質が拡散泳動を誘起して粒子が運動する.こうした濃度場を利用して相互作用する駆動粒子系としては細胞性粘菌が知られており,本系を活用することで生物集団の模倣系として利用できると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(i)粒子間の「反応」により自己駆動粒子化する系に関して昨年度で大幅な進展が見られた.こうした粒子対により生じる運動様相,更には抽象化した形での粒子ベースモデルや連続体モデルの応用を模索するステージに入っているといえる.また,粒子表面の材質を変更することでサイズに限らない相互作用の制御に成功している.これらは2021年度の研究計画にほぼ則った形で順調に進展させている. 2021年度に予定していた内容としてやや遅れが見られる点としては,実験で実効的相互作用の強度を制御し可変な相互作用を導入することである.ここでは,電気浸透流が極板近傍に局在してるしている点に着目し,粒子に外力を印加することで実効的な相互作用を調整することを想定していた.具体的には研究計画では,磁性コロイド粒子を応用した粒子を用いることで粒子の高さ制御を試みる予定であった.しかし,こちらは適切な磁性コロイドの準備方法につまづいている状況にある.
(ii)周囲濃度場との「反応」で自己駆動する粒子系に関しては,研究計画では触媒活性のある金属を利用してヤヌス粒子を作成し拡散泳動により運動を観察する予定であった.ところが2021年度に種々の金属を試行しているうち,研究目標としてはやや先取りとなる光応答で運動性を制御できる光触媒粒子の作成に成功した.ここでは,光照射時に粒子が離散,光遮断時に粒子が再集合するなど興味深い挙動が観察されている.この点は,昨年度の研究計画をやや先回る程度まで進捗したといえる.残された課題としては,粒子形状や大きさなど粒子合成プロセスの部分でばらつきが多く,集団挙動を見るために必要な均一な粒子集団系の構築が行えていない点である.このような粒子合成プロセスの検討と均一粒子合成による集団挙動の観察,制御が今後の課題である.
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今後の研究の推進方策 |
(i)粒子同士の「反応」による駆動粒子作成と集団挙動制御のテーマに関しては,数理的側面からの数理モデル解析を進めることが1つの方針となる.粒子ベースモデルに関しては簡略化し,その普遍的性質,特に粉体物理的観点での研究が興味深いと考えている.一方,連続化モデルでは極端な単純化を導入しているため,再検討することで2種粒子の保存量としての濃度場を取り入れ,広い実験系に適用できるよう拡張することが必要であると考えている. 次に実験的な研究として解決すべき課題は磁性粒子の作成となる.これまで粒子内部まで磁性体で作成することを想定していたが,ヤヌス粒子のように半面に磁性金属をコートすることで解決が図れると考えている.この点,金属をコートする手法も検討中でありこれまで用いていた真空蒸着装置に変わりスパッタ装置を利用するなども検討する.
(ii)周囲濃度場との「反応」による駆動系の作成では,懸案となっている均一な酸化チタン粒子合成が鍵となる.本年度は粒子合成を得意とする研究者や企業と相談しつつ工夫することにより均一な粒子を得ることを目標とする.こうして集団運動の制御が可能な実験系を構築することを目指す.また酸化チタンを一面に蒸着,反対面に金属を蒸着することで同様な触媒活性が得られないか試みる. 以上の計画に加え,こうした自己駆動粒子の知見や数理モデルが応用できる実験系の探索も平行して行う.現状考えている拡張方針としてはパターン化された電極基板を用いることで電場形状の制御などを行い集団運動挙動の制御を行うこと,電場駆動の知見を利用してベシクル・液晶などの分子集合体の散逸構造を構築・制御すること,自己駆動粒子の相挙動の制御によるin vitro motility assayの機能化を試みること,を併せて試みる予定である.
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備考 |
研究室および個人のwebsite
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