本研究計画では,(i)粒子レベルでの反応,(ii)周囲環境の濃度場との反応で自己駆動能を得る実験系に関して研究を行った. 2022年度の顕著な成果としてはペア形成して運動する粒子系に関しての研究が大きく進んだ.第1の成果は水面に浮かんだ樟脳粒子と受動粒子の集合系である.水面に浮かんだ樟脳粒子は樟脳分子を展開し,周囲にマランゴニ流を引き起こす一方で,能動的な並進運動を示す.この水面上に樟脳を展開しない受動粒子を設置すると,樟脳粒子と受動粒子間には水面形状の歪みに起因した引力が生じる.この引力がある一方で,周囲に展開した樟脳分子の濃度場は粒子間に実効的な斥力をもたらす.これらの引力と斥力の競合は,ペアとしての並進運動を生み出すのみならず回転運動も生起する.この研究は(i)と(ii)の複合型の研究であり公表論文として発表された.他にも本研究の発展系として,水相表面に浮かべた2種液滴系の研究も遂行し,公表論文を投稿中である.以上のペア形成を通じて生まれる自己駆動粒子は複数の種類の粒子系で一般的にみられる設定であるため,自己駆動能を実験系に導入する上で活用が期待される. また,(ii)としては,微小管とキネシンを分散させた水性2相分離系の研究も行なった.ポリエチレングリコール(PEG)とデキストラン(DEX)を水に混合すると,双方水性の2相に分離する.こうした水性2相分離系は界面張力が小さく且つ水溶性タンパク質を分離する特性を持つ.本研究では,この水性2相分離系に細胞骨格である微小管とモータータンパクであるキネシンを分散させた.すると,これらのタンパクが自発的に2相界面に集積し,対流を生み出すことを明らかとした.また,こうした対流生成現象を数理モデルの観点から精査し,対流生成が自発的な対称性の破れを通じて生み出されることを明らかとした.本研究の成果は公表論文として発表された.
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