我々は、脳幹の橋の細胞を遺伝子発現パターンに基づいてプロファイリングしてきた。このアプローチにより、脳幹の橋に散在する細胞群に関して、レム睡眠を促進することを明らかにした。一方、これらの細胞がいかに、レム睡眠の特徴である大脳皮質の神経活動や血流の上昇に関わるかのメカニズムは全く不明である。これらの細胞の標的細胞の中に、大脳皮質の神経活動や血管拡張、さらには全身の筋肉を制御する細胞が含まれている可能性がある。2年目は、レム睡眠制御細胞がいかにして大脳や全身の状態変化を誘導したかの解明に取り組んだ。まず、どの細胞に投射するのかを明らかにするために、軸索終末の分布を詳細に明らかにした。そのために、蛍光タンパク質を発現するウイルスベクターを導入し、蛍光シグナルの分布パターンを明らかにした。こうして同定された標的細胞群のうち、特定の脳部位に分布する細胞群に関して、化学遺伝学により活性化した効果を調べたところ、レム睡眠が強く誘導されることが判明した。そこで、これらの細胞に関して、さらに同様の手法で投射先を調べたところ、投射先には、脳の活動を広く制御する脳部位が複数含まれていることが判明した。鳥類と爬虫類にはレム睡眠とノンレム睡眠、あるいはそれらと共通点のある二つの睡眠状態があることが知られているが、一方、両生類や硬骨魚類では、そもそもはっきりとしたレム睡眠またはノンレム睡眠のような状態が検出されていない。そこで、我々がマウスにおいて同定したレム睡眠制御細胞が哺乳類以外の動物種においても存在するかを、分子マーカーの発現を指標に、in situ hybridization法によって検討した。その結果、複数の動物種で、相同性細胞と期待されるものが検出された。
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