マウスでは、毎日1億ほどの精子が精細管から誕生する。誕生した精子は、精巣上体細管内を通過することで運動能を獲得する。この過程は、精子の生殖細胞としての機能獲得に極めて重要であるにもかかわらず、生体内でどのように精子が振る舞い運動能を得るのかは全く不明であった。
2021年度は計画通り、マウスを用いたin vivoとin vitroの両実験系によるイメージング法の確立と精子集団運動の特徴づけを行なった。特に、マウス個体を生かした状態で組織深部を顕微鏡観察する生体イメージング法の確立に注力した。多光子顕微鏡を用いた生体イメージングにより精巣上体管内の精子個々の運動の詳細な観察を行なった。その結果、ダイナミックな精子集団の流れ場が形成されていることを見出した。これは生体内のアクティブマター(自己駆動の仕掛けを持つ物体)が生み出す現象として全く先例のない極めて重要な発見である。本研究をさらに推進することで、生殖生物学における現象の理解を深めることのみならず非平衡物理学など他の学術領域に新たな研究題材を提供できることが期待される。本研究を通して得られた知見は2022年度に出版が決まっている2報の総説(査読付き)の基本的なアイディアとなった。
2021年度途中に科研費の重複制限により本計画は廃止となったが、今後の研究の展開として、1)バイオセンサーマウスを用いた精子運動能の分子活性による定量評価、2)個々の精子運動と精子集団運動の紐付け、3)定量データを用いた数理モデリングなどをこれまでに得た研究結果を基に進める予定である。
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