昨年度までの研究で、カノニカルWntシグナルの直接の下流であるWNT4遺伝子の遺伝子座に赤色蛍光タンパク質をノックインしたWNT4-tdTomatoレポーターヒトiPS細胞株をCRISPER/Cas9システムを用いて樹立し、腎臓オルガノイド細胞塊のタイムラプス画像を撮像する環境を整えてきた。今年度はこの画像を元に、METイベントを将来起こすと予測される細胞塊をprospectiveに同定するアルゴリズム(tdTomato蛍光を発するより前に、光学的情報のみで予定細胞塊を推定する手法)を確立するために、機械学習を行った。その結果、Wntシグナル刺激によるMET誘導の開始2日以後に、AIによる予測確度が上昇してくることが分かった。この結果は、今後、教師データを増やすことでより早期にMETイベントを起こす細胞塊を予測可能になることを示す。 また、細胞塊の大きさによってMETイベントの発生時期が異なる現象に関して、その原因を明らかにするために大小の細胞塊を用いてBulk RNA-seqを実施した。その結果、大きな細胞塊において、ネフロン前駆細胞の質を決める遺伝子の発現が上昇していることを認めた。更に、腎臓オルガノイド細胞塊のタイムラプス画像解析と並行して、経時的な1細胞RNA-seqを実施した。その結果、腎臓オルガノイドにおいて、ネフロン前駆細胞がMETを起こし腎胞が形成されるまでの遺伝子発現のダイナミクスを1細胞毎に検出することができた。更に解析によって、ネフロン前駆細胞の状態から既に細胞毎に遺伝子発現の不均一性が存在している事が分かった。これらの結果は、個々の細胞の不均一性に加え、細胞塊内部の環境、特にパラクライン因子が、リーダー細胞であるネフロン前駆細胞の特異性を担う因子である可能性を示唆している。
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