人間は他者が信頼できるか否かを顔つきなどから直感的に判断する。この直感的信頼の成人期発達については、社会的経験の蓄積により他者の真の信頼性を正しく反映する妥当性が高まる可能性(熟達化説)と、脳の加齢変化により他者を信頼しすぎるバイアスが強まる可能性(ポジティブ化説)が考え得る。本研究では、顔に基づく直感的信頼を高齢者、中年者、若年者の三世代間で比較する実験を行い、上記2つの仮説を検証することを研究期間全体としての目標としている。2022年度においては、参加者の年齢層に加え、他者の顔の表情(笑顔[喜び表情]または真顔[中性表情])を関心要因とし、直感的信頼の世代間差に印象操作が与える影響を探る実験を行った。実験の結果、顔に基づく直感的信頼について、笑顔の他者は真顔の他者よりも信頼されやすいというバイアスが、三世代で一貫して認められることがわかった。この結果は、特定の世代(例えば、高齢者)が印象操作に脆弱なわけではないことを示唆している。加えて、若年者が中年者に比べて他者を信頼しにくいバイアスを持つことを示唆する結果も得た。以上の研究成果を、2023年3月に開催されたInternational Symposium on Lifelong Sciencesにおいて発表した。また、2021年度に行った直感的信頼の三世代間比較の研究(この研究では、表情ではなく、課題を有意義に感じる程度[課題有意義性]を操作)を第40回日本生理心理学会大会・日本感情心理学会第30回大会合同大会2022(2022年5月開催)で発表し、優秀研究賞を受賞した。さらに、これまでに行ってきた信頼の知覚と学習の年齢関連差に関する自身の研究を総括する論文をPsychologia誌に発表した。
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