これまで、人間の生涯における個体の変化は、誕生からの時間で定められた「暦年齢」をもとに成長から衰退という現象を捉えてきた。しかし発達・加齢プロセスは、遺伝・環境要因の相互作用の影響を受けるため、個人差が大きく「暦年齢」だけでは説明が困難である。環境要因により遺伝子の働きが調節される仕組みをエピジェネティクスとよび、その代表的な一つであるDNAメチル化が近年、発達・加齢プロセスの個人差に重要な役割を果たすことが明らかになってきた。従来からの「暦年齢」に対して、DNAメチル化レベルを基に予測された年齢は「生物学的年齢」と呼ばれ、組織・細胞の老化の程度を反映すると考えられている。 本研究は、DNAメチル化を基にした「生物学的年齢」を算出し、自閉スペクトラム症やそれとは逆の高い社交性を呈するウィリアムズ症候群の発達・加齢に伴う社会性や認知機能を精密に評価することを目的とする。これら神経発達症では、症状の個人差や小児から成人への移行医療の難しさから、発達・加齢と社会性や認知機能との関係は明らかになっていない。そこで本研究では、被検者検体を使ってDNAメチル化を基にした「生物学的年齢」を算出し、問診や質問紙、さらに視線計測解析を実施することにより、発達・加齢と社会認知機能との関係を明らかにする。本研究の結果は、神経発達症だけでなく、広く老化プロセスへの介入・支援への応用が期待される。 本年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響に伴い、 研究協力機関における感染症拡大防止の観点に基づく方針により研究活動が制限され、当初予定されていた被験者のリクルー トおよび検体回収ができなかったため、研究究延長申請が承認、次年度も引き続き研究継続することとなった。
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