幼少期の習慣的運動は認知機能の発達を促し、その効果は中高齢期にまで継続されることが示されている。しかし、その基盤となる神経機構と個人差は検討されておらず、どのような場合に幼少期の習慣的運動が中高齢期の認知機能の維持・増進に貢献するのかは未解明である。本研究は、子どもを対象とした2年間の前向き縦断研究と中高齢者を対象とした後ろ向き横断研究により、幼少期の習慣的運動が中高齢期の認知機能を維持・増進させる背景にある脳の構造・機能的変化およびその個人差を明らかにすることを目的としている。 令和4年度には、個人差に着目した研究を実施した。幼少期の習慣的運動は中高齢期の大脳皮質厚および大脳半球間の機能的・構造的結合と正の相関関係を持つ一方で、大脳皮質神経突起密度、方向散乱と負の相関関係を持つことが示された。また、中高齢期の身体不活動、座位時間、喫煙、睡眠不足、肥満、低体力は大脳皮質厚および大脳半球間の機能的・構造的結合と負の相関関係を持つ一方で、大脳皮質神経突起密度、方向散乱と正の相関関係を持つことが示された。これらの結果は、幼少期に運動を行なっていたとしても、成人後の身体不活動、座位時間、喫煙、睡眠不足、肥満、低体力により、幼少期の運動の好影響が弱まることを示唆している。
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