研究領域 | 生涯学の創出-超高齢社会における発達・加齢観の刷新 |
研究課題/領域番号 |
21H05334
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
進矢 正宏 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 准教授 (90733452)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 運動学習 / 姿勢制御 / 障害物跨ぎ歩行 / 予測的姿勢制御 / モーションキャプチャ― |
研究実績の概要 |
「行きたいところに行ける・やりたいことができる」という随意運動制御と、それを支える予測的姿勢歩行制御は、幼児から高齢者まで、生涯に渡って人間の幸福の基盤となる神経系の機能である。予測的姿勢歩行制御の生涯学を推進するため、1)マーカーレスモーションキャプチャー技術の応用可能性の検討した上で、2)障害物跨ぎ歩行研究、および3)引き出し装置を用いた予測的姿勢制御学習研究を実施した。 1) 高齢者施設や保育園などのフィールドで簡便に動作計測を行えるよう、KinectやOpenPoseを用いたマーカーレスモーションキャプチャー技術の妥当性の検証を行った。健常成人の障害物跨ぎ歩行における動作計測を、1台のAzure Kinectにより可能であることを示した(Yoshimoto & Shinya, PLoS One, 2022)。 2) 2歳から5歳の未就学児10人を対象に、障害物跨ぎ歩行実験を実施した。2-5歳の未就学児でも、安全に障害物を跨ぎ歩くことが可能であること、2歳児は3歳以上の幼児より、障害物を跨ぐ際の重心の動的安定性が低いことが示唆するデータを得た。 3) 予測的姿勢制御学習を研究するための課題として、引き出し装置を作成した。引き出しの負荷を制御するために背面に電磁石を設置し、引き出しの取っ手部分にロードセルを設置することで、被験者が引き出しを引く力を測定できるようにした。引き出しを引く前の段階で観察される床反力や足圧中心の変化を、フォースプレートを用いて計測し、重心の動的安定性をモーションキャプチャーにより計測することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 予測的姿勢制御学習の生涯学を推進するために、高齢者施設や保育園などのフィールドで簡便に動作計測を行えるよう、KinectやOpenPoseを用いたマーカーレスモーションキャプチャー技術の妥当性の検証を行った。健常成人の障害物跨ぎ歩行において、Azure Kinectを後続脚側ななめ前方に配置することで、1台のデバイスで、マーカーを貼る手間をかけずに、クリアランスなどの障害物跨ぎ歩行研究に必要な運動学的変数の計測が可能であることを示した(Yoshimoto & Shinya, PLoS One, 2022)。 2) 2歳から5歳の未就学児10人を対象に、障害物跨ぎ歩行実験を実施した。被験者は、歩行路に設置した身長の10%の高さの障害物を跨いだ。前方および左右の斜め前の3か所から撮影した映像から、OpenPoseを用いて骨格位置を推定した後、三次元DLT法により、全身の三次元動作データを得た。障害物を跨ぐ際の歩行速度、障害物と足との最短距離であるクリアランス、重心の動的安定性を主なアウトカムとして、安全かつスムーズな障害物跨ぎ動作を定量的に評価した。現在のところ、2-5歳の未就学児でも、安全に障害物を跨ぎ歩くことが可能であること、2歳児は3歳以上の幼児より、障害物を跨ぐ際の重心の動的安定性が低いことが示唆されている。 3) 予測的姿勢制御学習を研究するための課題として、引き出し装置を作成した。引き出しの負荷を制御するために背面に電磁石を設置し、引き出しの取っ手部分にロードセルを設置することで、被験者が引き出しを引く力を測定できるようにした。引き出しを引く前の段階で観察される床反力や足圧中心の変化を、フォースプレートを用いて計測することで、予測的姿勢制御を力学的に評価することができた。また、モーションキャプチャーにより全身の動作計測を行い、動的安定性評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
1) 2022年度は、未就学児の障害物跨ぎ歩行のデータ計測は継続的に実施する。また、比較対象として、健常成人20名を対象とした実験を行う予定である。障害物跨ぎ歩行の際の重心の動的安定性の評価として、逆振り子モデルに基づいたHof(2005)の動的安定性の他、支持脚と遊脚の二重振子モデルに基づいたKagawa(2022)のバランスマップ解析を行う予定である。前年度までの研究成果をISPGR, STFといった国際学会や、日本バイオメカニクス学会・日本姿勢と歩行研究会といった国内の学会で発表する予定である。また、成人と未就学児の障害物跨ぎ歩行キネマティクスの比較データを論文として投稿する予定である。 2) 新規環境下における予測的姿勢制御の学習過程を定量的に理解すること、を目的として、引き出し装置を用いた学習実験を行う。電磁石の負荷をごく軽い5N程度に設定したbaseline試行に続いて、50N程度の負荷が加わるadaptation試行、その後再び負荷がないwashout試行を行う。足圧中心指標や筋電図解析により、どの程度の試行数で予測的姿勢制御の学習が行われるのか、そこにはどの程度の個人差が存在するのか、について明らかにする。また、Hofの動的安定性指標を定量することで、学習された予測的姿勢制御が、どの程度重心の動的安定性向上に寄与しているのかを明らかにする予定である。まずは健常成人を対象とした実験を行い、順調に実験が実施できることを確認した上で、こどもや高齢者も対象とする。
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