研究領域 | 中国文明起源解明の新・考古学イニシアティブ |
研究課題/領域番号 |
21H05360
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
板橋 悠 筑波大学, 人文社会系, 助教 (80782672)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 食性復元 / 動物の価値の序列 / 同位体分析 / アミノ酸窒素同位体 / 古代中国 |
研究実績の概要 |
2021年度は新型コロナ流行により、中国での現地調査と資料採取を行うことができなかった。 そのため甘粛省の斉家文化期の磨溝遺跡、火焼溝文化期の火焼溝遺跡、広東省の新石器時代から商周併行期の銀洲遺跡、四川省の営盤山文化期の営盤山遺跡出土の人骨・動物骨を日本へ送付してもらい、コラーゲンの炭素・窒素同位体分析、アミノ酸の窒素同位体分析を行った。 磨溝遺跡と火焼溝遺跡は共に河西回廊に位置する青銅器時代遺跡である。しかし、磨溝遺跡の方が下流に位置して定住農耕が行える環境にある一方で、火焼溝遺跡はより乾燥して穀物栽培が難しい乾燥環境に所在しており、ヒツジやウシの放牧が主要な生業であったと考えられている。 分析の結果、磨溝遺跡出土のイノシシ類はヒトやイヌと同等に肉食率が高い食性を持っていることが示された。磨溝遺跡のイノシシ類は家畜ブタと考えられているが、この結果から、磨溝遺跡ではブタにイヌと同じように残飯や人糞などの動物性食物を含む餌を与えていたと考えられる。一方で、火焼溝遺跡から出土したイノシシ類はウシやヒツジと同程度に植物食傾向が強いことが明らかとなった。火焼溝遺跡のイノシシ類も既にヒトの管理下にある家畜ブタと考えられているが食性が磨溝遺跡のブタとは大きく異っている。この結果から、火焼溝遺跡のブタはヒツジやウシと同様に草原などで放牧されており、中国の中原や長江下流域で想定されている残飯による飼育とは異なる管理を受けていたことが示唆された。ヒツジやウシの放牧を行う遊牧的な集団はブタにも類似した管理方法を応用しており、ブタが主要な家畜であった他の文化とは異なる飼育方法を取っていた可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は新型コロナ流行により、当初予定されていた中国での現地調査と資料採取を行うことができなかった。また中国の考古学者および文化遺産当局との研究打ち合わせや新たな調査に向けた協議を進めることができなかった。 そのため、既に関係のあった中国国内の研究者および中国外(USA)で中国の先史時代遺跡資料を管理している研究者との共同研究を開始し、いくつかの先史時代遺跡から出土した磨溝遺跡、火焼溝遺跡、銀洲遺跡、営盤山遺跡の資料で分析を行った。 本課題の主目的である階層・身分差による動物消費の解明のために最適な資料ではなかったが、生業の異なる中国各地の新石器時代後期から青銅器時代初期の遺跡の人骨・動物骨を分析することで、中国諸地方文明を構成する各地域の食性と動物利用を比較することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は2021年度に得られた人骨・動物骨資料の前処理と機器測定を継続し、各遺跡の集団の食性復元を行う。 また中国国内での遺跡調査の再開や、申請者や研究協力者の中国渡航によって得られた新たな遺跡資料の採取と分析を行う。寧夏回族自治区の姚河原西周遺跡の資料を採取し、分析を行う予定である。姚河塬西周遺跡の周辺遺跡ではウシ、ウマ、ヒツジの頭骨犠牲が確認されており、個人が動物供犠に利用した動物種の比較・検証が可能であると期待される遺跡である。 2022年度には本課題で得られた成果を国際学術誌(Archaeometry)に投稿し、また国際会議(the Society for East Asian Archaeology)で発表する予定である。
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