本研究では、識字率の低いパキスタンという多言語社会において、話し言葉に近く、広い世代が理解可能な「やさしいウルドゥー語」のあり方を巡って、基礎的な調査を行うことを目的としていた。特に、今年度はパキスタンにおけるウルドゥー語という国語の「言語権」に焦点あて、同国の言語サービスの展開について考察した。研究成果については、言語教育と言語政策についてそれぞれ口頭発表を行った。 新たな取り組みとしては、ウルドゥー語に関する雑誌記事の抜粋とテキスト化を進めた。雑誌については、ウルドゥー語という「国語」の選択を行い、地域の言語運動が盛んになった1940年代から60年代までの資料を集中的に扱った。その結果、パキスタン政府が多言語国家の責務として、地域諸語の文芸・文学を推進する雑誌や機関の設置を進めていた一方で、その影響力は限定的であったことを指摘した。また、1990年代にコンピュータによるデジタル入力技術が発展した際、ウルドゥー語以外の地域諸語の対応が遅れ、結果的に地域諸語による印刷文化の停滞を招いたことの気づきを得た。印刷媒体や出版社の技術的な多言語対応については、本研究から得た知見をもとに、ウルドゥー語によって語る多言語文化と、各言語自体の論壇についての新たな分析を進める予定である。 また、教育活動においても、「やさしいウルドゥー語」のベースとなっている「やさしい英語」と「やさしい日本語」について取り上げ、実例とともに言語の表現の仕方を調整するという新たな取り組みを行った。
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