研究実績の概要 |
箱型分子であるキュバンが完全にフッ素化されたペルフルオロキュバンは,箱の内部に集合した低準位のシグマスター軌道に電子を受容すると予測されていたが,合成は達成されていなかった。申請者は科研費(若手研究)課題としてペルフルオロキュバンの合成に取り組み,世界で初めて合成に成功した。本研究では「ペルフルオロキュバンが電子受容体として働くか?」との問いから,ペルフルオロキュバンの電子受容性に関する研究をおこなった。 具体的には,ペルフルオロキュバン・ヘプタフルオロキュバン・へキサフルオロキュバンとフッ素の数が異なるキュバン分子を合成し,これらについて電気化学的測定・吸光測定を行った。電気化学測定より,フッ素の数が増えるに従ってLUMOが低くなり電子受容性が上がることを確認した。吸光波長についてもフッ素の数が増えるとともに長波長にシフトし,低いLUMOの存在がサポートされた。さらに,ペルフルオロキュバンが受け取った電子の大部分がキュバン骨格内部に分布することを,低温マトリックス単離ESR法を用いて実験的に確かめた。ここまでの成果をまとめた論文はScience誌に掲載された(Science, 2022, 377, 756.)。 研究実施計画においてはペルフルオロキュバンに芳香環を繋げて光学特性を調べることとしていたが,学術変革領域参画後のディスカッションを経て,まずはペルフルオロキュバンそれ自体の光学特性を調べることとし,計画を変更して実施した。
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