研究領域 | 動的エキシトンの学理構築と機能開拓 |
研究課題/領域番号 |
21H05394
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
玉井 康成 京都大学, 工学研究科, 助教 (30794268)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 電荷分離 / 電荷移動 / 電荷解離 / 有機薄膜太陽電池 / 過渡吸収分光 |
研究実績の概要 |
「静的エキシトン」の枠組みで考えると、有機薄膜太陽電池において優れた電荷生成効率(高い短絡電流量)を実現するためには、材料の励起状態(LE状態)のエネルギーと電荷移動状態(CT状態)のエネルギーに十分なエネルギー差(オフセット)が必要である。 一方、我々はLE-CT状態間にオフセットが無くても高速で電荷生成可能な系を見出している。このようなオフセットの無いドナー/アクセプター (D/A)界面における高速電荷移動は従来の静的エキシトンの枠組みでは説明が難しく、なぜオフセットが無くても高速電荷移動可能なのかは未だ明らかになっていない。 そこで本研究では過渡吸収分光法を中心とした種々の分光学的手法によりD/A界面における電荷ダイナミクスを評価し、オフセットが無いD/A界面における「動的エキシトン」の電荷分離・再結合メカニズムを明らかにする。 本研究ではモデル系として現在のstate-of-the-art系であるPM6/Y6素子を用いた。PM6/Y6ブレンド膜を狭バンドギャップ材料であるY6の吸収波長である800 nmで光励起して過渡吸収測定を行うと励起直後からPM6の基底状態褪色が観察された。これは100 fsの励起パルス内で既に一部のY6励起子が電荷分離していることを示している。PM6/Y6系におけるオフセットは0.1 eV程度しかないため、この様な高速電荷分離は静的エキシトン描像とは異なるものである。現在PM6/Y6系における拘束電荷分離メカニズムについて検討するとともに、PM6やY6の誘導体を用いたPMn/Ynブレンド膜の過渡吸収測定を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ研究計画通りに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も昨年度に引き続き、種々の組み合わせでPMn/Ynブレンド膜を作製し、D/A界面で生成する動的エキシトンの物性を系統的に変化させた薄膜について過渡吸収測定を行う。PM6/Y6は室温下において時定数サブピコ秒の高速電荷移動が観測される一方で、 PM6/Y5系では電荷分離効 率が低下すること が昨年度までの測定においてすでに確認されている。この違いがD/A界面近傍における分子運動とどのように相関しているのかを明らかにするため、過渡吸収測定の温度依存性を検証する。低温下において分子運動が抑制された状態、あるいは高温下において分子運動がより活性化された状態における電荷分離効率を種々のPMn/Yn系において測定することで、動的効果が電荷移動に及ぼす影響を明らかにすることができると考えられる 。また、電荷分離効率を測定温度に対してArrheniusプロットすることで電荷分離の活性化エネルギーを算出し、静的エキシトン描像から予測される活性化エネルギーと比較することでも動的効果が電荷移動に及ぼす影響を明らかにすることができると考え られる。
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