研究実績の概要 |
2022年度は、既存の時間分解分光では可視化の難しいDAペアの対間距離ダイナミクスを検出可能な分光手法の開発をめざし、多重励起技術を用いることで、イオン解離の進行度に依存して変調される過渡信号を取得し、時々刻々と変化していくD+A-の対間距離ダイナミクスの計測に成功した。これに並行し、32連の励起光パルス列を用いた信号増強型Pump-Repump-Probe分光を新規に開発し、この手法を液相における多光子イオン化により生成したカチオン(A)・電子(D)ペアの拡散ダイナミクスの可視化に応用した。その結果、イオン種や電荷キャリアの拡散の鍵因子である誘電率や拡散係数は、フェムト・ピコ秒の極短時間領域ではもはや一定ではなく時間とともに変化すること、電荷再結合や解離過程の精密解析にはこうした周辺場の動的効果が重要であることを明らかにした(H. Sotome* et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 2022, 24, 14187-14197. Back cover)。光レドックス触媒反応や光誘起ラジカル生成過程を対象として、時間分解分光を用いて反応機構解析の研究を進め、光重合開始剤のラジカル生成ダイナミクスについて、共同研究として、フリーラジカルは三重項状態を経由し生成したラジカル対から効率的に生成することを見出した。この知見は先行研究の報告を覆すものであり、光重合開始剤の合理的設計指針を取得できた(K. Sameshima, T. Kawakami, H. Sotome* et al., J. Photochem. Photobiol. A 2023, 437, 114479.)。構造揺らぎが高効率発光の鍵となるTADF分子系についても共同研究を進め、低波数ラマン分光と量子化学計算を用いて、逆項間交差を促進する低波数振動モードを特定した。
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