研究領域 | 動的エキシトンの学理構築と機能開拓 |
研究課題/領域番号 |
21H05401
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
儘田 正史 九州大学, 工学研究院, 助教 (60625854)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | ドナーアクセプタ / 熱活性化遅延蛍光 / 有機半導体レーザー / 自然放射増幅光 / 有機発光ダイオード |
研究実績の概要 |
本研究では、熱活性化遅延蛍光(TADF)分子においてあまり議論されてこなかった振動子強度について着目し、その理解と制御、およびレーザー特性の発現という機能化を目指す。ドナーアクセプタ(D-A)分子においてHOMO-LUMOの重なりを制限することは、一重項-三重項エネルギーギャップ(ST gap)を減少させ、逆項間交差(RISC)とTADFを効率的に生じさせることを可能としている。一方、これは振動子強度とも強く相関し、小さな放射速度定数(kr)を与えることから、D-A分子はほとんどレーザー特性を示さない。しかし、例外的にTADFかつレーザー活性な分子が存在し、これらの化学構造と励起状態について理解を深めることは、OLEDの性能向上と将来の半導体レーザーの高効率化に寄与する。 本年度は、シンプルなD-A構造を持ちながら通常のTADF分子よりも1桁以上大きなkrを示す材料の評価を進めた。0.2 eV以下の小さなST gapと10^8 s^-1以上の大きなkrを示す分子では、遅延蛍光と自然放射増幅光(ASE)の観測に成功した。一方で、これらのD-A分子においては、ホスト材料の極性などによる物性の違いが大きく影響することが明らかとなった。さらに一部の分子においては、低温での測定から構造変化の影響が大きいことも示唆された。また、比較的高いkrを示しながらASEが観測できない分子も見出しており、今後の検討で比較例として用いることが可能である。 また、多重共鳴効果(MRE)によるTADF分子は、通常のD-A分子とは設計指針が異なるものの、HOMO-LUMOの分離と各速度定数などの相関を理解する上では興味深い対象となる。電流励起によるレーザーへの応用を視野にいれ、レーザーデバイスを作製したところ、1 microJ/cm2以下の極めて低い発振しきい値を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TADF特性とレーザー特性のいずれも示す発光材料を見出し、類似構造を有する多様な誘導体の検討を進めることができている。ホスト材料のスクリーニングも同時に進めたことで、これらの系と相性の良いホスト材料を数種類見出しており、励起状態の性質についてより詳細な議論を進める道筋が得られている。また、ニートでも低いしきい値でASE発振を示す化合物も得られている。MRE型のTADF材料では、レーザーデバイスにおいて、蛍光材料を含めた場合でもトップレベルの低しきい値を実現することができており、電流励起の可能性が高まったと言える。今後、連続光(CW)レーザーなどを実現できればTADF過程をレーザーに活かすことができるため、TADFかつレーザー特性を示す色素の応用を期待できる状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
数種類の溶媒やホスト材料を用いた薄膜およびニート薄膜などの多数の条件における基礎光学特性評価を全ての化合物について完遂する。続いて、ASE特性およびTADF特性の評価を行い、良好な結果を示した化合物については、それぞれ、共振器構造を導入したレーザーデバイスおよび有機ELデバイスの作製を行い、デバイスの特性と分子物性についての相関のさらなる理解を進める。このような実験的な結果を蓄積した上で、これらの物性を理論計算により説明することを試みる。励起状態の構造や、計算法を幅広く検討し、化学構造と物性の相関を明らかにする。これにより、新たな誘導体創出の効率化へとつなげ、大きなkrを維持しながら、STギャップをさらに低下させることを狙う。
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