電子状態の『非局在化』は半導体光エレクトロニクスの駆動効率を最大化するための必要条件であり,電子状態を非局在化させるには高秩序な分子配列が不可欠である。一方,有機半導体におけるキャリア・エキシトン変換には異種分子によるドナー・アクセプター(D・A)界面の存在が必要とされる。本研究課題は,分子単結晶表面上にエピタキシャル成長させた『単結晶エピタキシャル有機半導体D・A界面』を舞台として,そこに現れる非局在化キャリア・エキシトンの物性を究明することを目的としたものである。 キャリア・励起子の非局在化状態を最大化するためには,欠陥密度を可能な限り低減した高秩序な単結晶有機半導体D・A界面試料が必要となる。本研究では,窒素置換グローブボックス(GB)を所属機関に新規導入し,これを有機単結晶製造装置と直結することで,不純物生成を排した高純度単結晶有機半導体基板の製造が可能となった。その上に高真空環境下で高純度な単結晶有機半導体D・A界面試料を積層し,高輝度かつ高指向性のシンクロトロン放射光施設(SPring-8)を利用した実験により界面結晶構造の精密評価を進めた結果,高秩序構造を実現する「準ホモエピタキシャル接合」の提唱などの成果が得られた。 キャリアの非局在化は,角度分解光電子分光による電子バンドの運動量―エネルギー分散関係計測により実証することができる。研究代表者は,過去に角度分解光電子分光計測の単結晶有機半導体D・A界面試料への適用に成功した実績を有している。本研究では,上述した有機半導体の「準ホモエピタキシャル接合」試料に対する電子バンド計測を実施し,基板となっている単結晶有機半導体だけでなく,積層材料の結晶薄膜においても電子バンド分散が生じていることを示唆する結果を得ている。今後,再現性確認のための実験と詳細なデータ解析を進めていく。
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