研究領域 | 動的エキシトンの学理構築と機能開拓 |
研究課題/領域番号 |
21H05407
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
浦谷 浩輝 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (50897296)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 励起状態 / 時間発展 / 分子集合体 / シミュレーション / 非断熱 / 動的エキシトン |
研究実績の概要 |
実デバイスを踏まえた分子集合体における励起状態ダイナミクスシミュレーションという目的を見据え、本年度は、そのための手法検討を中心に行った。 具体的には、高速な近似的量子化学計算手法である密度汎関数強束縛(DFTB)法を基盤に、電子状態を実時間発展で記述した。また、核のダイナミクスについては、平均場近似に基づいて非断熱性を考慮する手法(Ehrenfest法)を用いた。現実的な計算資源量で大規模系の扱いを可能とするため、DFTB法におけるハミルトニアンの空間的局所性を用いて計算の高速化を図るpatchwork近似を導入した。 本手法の記述力を検証する目的で、典型的な有機太陽電池系であるP3HT/PCBM界面を対象としたテスト計算を実施した。当該系の切り出し構造モデル(約1900原子からなる)を古典分子動力学計算を用いて作成し、レーザーパルスを模した振動電場により電子励起したのち、電子状態および構造の時間発展を数百フェムト秒にわたって追跡した。 シミュレーションの結果、励起に伴うドナー(P3HT)からアクセプター(PCBM)への電子移動を示唆する結果が得られた。また、patchwork近似においてはパラメーターの設定により計算時間が変化し、これと計算精度がトレードオフの関係にあるが、テスト計算の結果を踏まえて精度と計算時間のバランスが最適となるパラメーターを決定することができた。 今後、系の化学的修飾や、レーザーパルスの幅・強度・波長等をはじめとする条件に対する依存性を体系的に調べる予定である。また、励起に伴う電子移動や構造変化について、そのエネルギー論や時間スケール等の観点から既知の実験事実と比較し、本手法による結果の定量性の程度を議論する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、分子集合体における励起状態ダイナミクスを扱うための手法の確立とその応用という2段階からなるものであり、それぞれに全研究期間のおおよそ半分程度を要すると見込まれる。 本年度は、検討した手法に基づく計算に係る各種条件に対する依存性を調べるとともに、どの程度定量的な結果が得られるのかを検証する観点から、典型的な有機太陽電池系であるP3HT/PCBMの構造モデルを対象に、レーザーパルスによる励起に続く時間発展を追跡するテスト計算を実施した。テスト計算においては、構造モデリングの方法の検討、計算精度及び計算時間の観点から最適な計算条件の決定等を行った。得られた知見を応用することで、異なる実験条件を想定した計算や、別のドナー・アクセプター界面系を対象とする計算もスムーズに実行可能となることが期待される。 計算の結果、励起に伴うドナー(P3HT)からアクセプター(PCBM)への電子移動を定性的に観察できた。現在までに技術的な事項に関する調整を概ね完了できたため、定量的なデータの収集を今後進める予定である。具体的には、熱ゆらぎによるばらつきの程度、レーザーパルスの幅・強度・波長に対する依存性、電子移動や構造変化の時間スケール・エネルギー論等を対象とする。 以上より、計算結果と実験結果との対応を詳しく議論するまでには現在のところ至っていないものの、データを取得する準備については大部分が完了したといえる。次年度、計算手法に関するテストをすみやかに完了し、本格的な応用へ移行できることが期待される。したがって、現在までの進捗状況はおおむね当初の計画通りのものであるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本計算手法により期待できる結果の定量性の程度を明らかにするため、P3HT/PCBM系に対して実験結果と比較可能なデータの収集を行う。これを完了したのち、本格的な応用計算へと移行する。 応用計算については、特定の典型的な系の振舞いを詳細に解析する方向と、複数の異なる系を比較する方向の両面から進める。 前者については、例えば有機太陽電池ならばテスト計算でも扱ったP3HT/PCBM等(必ずしもこれに限定しない)について、本手法により光励起直後の電荷分離やポーラロン形成のダイナミクスを実時間追跡する。電子ダイナミクスと構造ダイナミクスを同時に追跡できるという本手法の利点を活かし、両者の相互作用が光励起状態ダイナミクスにおいて果たす役割について、一般的な知見を得る。構造を固定した上で電子ダイナミクスだけをシミュレートする場合や、構造ダイナミクスとして単なる熱運動のみを考慮する(電子状態による影響を受けないと仮定する)場合などとも比較することを通し、よりシンプルなモデルで説明可能な要素と、そうでない要素とを区別する。 後者については、異なる材料を用いた系、添加物を含む系、デバイス製作プロセスによるモルフォロジーの違い等を反映した複数のモデルを用い、同様なシミュレーションを実行する。以上のような条件の違いにより、電子ダイナミクスと構造ダイナミクスの相互作用の様子やそれによる系の物性の違いを調べ、材料やデバイスの設計指針につながる知見を得ることを目指す。 さらに、本学術変革領域内の協力体制を活かして実験研究者との共同研究を進める。興味深い光電子物性を示す系、あるいは分光学的手法ではアクセス困難な情報が求められる系・現象に対し、シミュレーションを用いたミクロな観点からの解析を行う。
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