前年度、有機太陽電池をはじめとする分子集合体における励起状態ダイナミクスシミュレーションを実現するための手法の検討を行った。本年度は、その結果を踏まえ、大規模系の電子・構造ダイナミクスを扱える手法であるpatchwork-approximation-based Ehrenfest法を用いることで、実在の有機太陽電池系を模したドナー・アクセプター界面モデルにおける電荷移動ダイナミクスを追跡し、電荷移動を駆動する要因について議論した。 計算においては、ドナー及びアクセプターとしてそれぞれ典型的な化合物であるP3HT及びPCBMに注目し、古典分子動力学法に基づいて構造の乱れを考慮したnmスケールのドナー・アクセプター界面モデルを作成した。レーザーパルスに対応する振動電場により系を電子励起状態とし、これに続く電子・構造ダイナミクスを追跡した。 電子ダイナミクスに加えて構造ダイナミクスを考慮したシミュレーションにおいては、ドナーからアクセプターへの電子移動が観察された。一方、構造ダイナミクスを無視し(構造を固定し)電子ダイナミクスだけを考慮したシミュレーションでは電子移動がほとんど観察されなかった。このことから、ドナーからアクセプターへの電子移動に対し、構造ダイナミクスが重要な役割を果たしていることが示された。 また、アクセプターは多数の分子の集合体から構成されるが、構造の乱れを考慮した本研究のモデルにおいては、特定の分子のみが電子移動に支配的な寄与をする様子が観察された。このことは、実在系におけるドナー・アクセプター間電子移動が、局所的な構造乱れに強く依存したものであることを示唆する。
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