有機 EL 素子は,応答速度やコントラスト比に優れており,ディスプレイ分野での実用化が進んでいるが,エネルギー変換効率に課題を残している。そこで近年,100% 近い内部量子効率(IQE)が可能な熱活性化遅延蛍光(TADF)材料の開発が盛んに行われている。しかし,TADF 材料は,一般に幅広な発光スペクトルを示すことから,照明には適しているが,高い色純度を必要とするディスプレイには不向きである。これに対し研究代表者の所属研究室では,ホウ素と窒素の「多重共鳴効果」により,励起一重項状態と励起三重項状態のエネルギー差の縮小と励起状態における構造変化の抑制に成功し,最大 IQEが100%に達しながら,スペクトル半値幅が小さく極めて色純度に優れた青色発光を示す TADF 材料(DABNA)の開発に成功した。しかし,蛍光材料を用いた素子と比較すると素子寿命が短く,TADF 材料としての実用には至っていない。そこで,本研究では,動的エキシトンの制御により,最高レベルのエネルギー変換効率と実用レベルの耐久性を兼ね備えた青色TADF 素子の開発を行った。 まず,逆項間交差速度定数の向上を目的として,DABNAの縮環三量体構造をもつ含BN拡張ヘリセン(V-DABNA)の合成を行った。V-DABNAは半値幅の小さいスカイブルー発光を示し,逆項間交差速度定数の向上に成功した。また,V-DABNAにフッ素原子を導入することによって,発光波長は短波長化し,高色純度の深青色TADFを示した。これらを発光材料として用いた有機EL素子は,高い色純度を維持しつつ,高い最大外部量子効率(26%)およびロールオフの抑制を達成した。
|