研究領域 | 動的エキシトンの学理構築と機能開拓 |
研究課題/領域番号 |
21H05411
|
研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
伊澤 誠一郎 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 助教 (60779809)
|
研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
|
キーワード | 動的エキシトン / フォトンアップコンバージョン / 界面 / 有機半導体 |
研究実績の概要 |
フォトンアップコンバージョン(UC)は、物質内でのスピン変換・エネルギー移動により、低エネルギー(長波長)の光を高エネルギー(短波長)の光に波長変換する技術である。UCは太陽電池や光触媒の効率向上や、生体透過性の高い近赤外光の特徴を生かしたイメージング素子や生体内遺伝子操作などへの応用が期待されている。従来法では、感光体分子内での重原子効果による項間交差で三重項を生成し、感光体から発光体への三重項エネルギー移動、発光体分子同士の三重項消滅を経て高エネルギー発光を実現する。しかし、溶液中での例がほとんどであり、レーザー光など強い励起光が必要なこと、レアメタル・有害元素を用いること、さらに応用上で最も重要な固体中では三重項の無輻射再結合により外部量子収率が0.1%以下と非常に低いことなどが問題となっている。 そこで本研究では、有機半導体界面での動的エキシトンを利用した新しい原理のUCを実現し、固体中でのUC効率の向上を目指した。その機構は、界面での電荷分離・再結合原理を応用し、界面での生成した動的エキシトン(界面CT)のスピンを反転させることで三重項励起子を生成した。この界面での動的エキシトンのスピン反転機構のおかげで従来法の三重項失活過程を回避でき、全固体、希少元素フリー、かつ太陽光と同程度の励起光強度で従来法より100倍以上高い量子収率を実現した。 さらに動的エキシトンの動作原理を解明に向けてUC発光の電場依存性測定も行った。その結果、UC発光が電場により消光することがわかり、UC発光の起源は光吸収、界面での電荷分離で生成した自由電荷由来であることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず界面での動的エキシトンのスピン反転機構を利用することで、新しい原理に基づくフォトンアップコンバージョン(UC)を実現した。この新たな原理によって、従来の手法で問題となってた数々の事柄が解決された。まず全固体での高効率がUCが初めて可能となり、さらにスピン反転に重原子効果を用いないので希少元素を使わなくてもUCが可能となり、さらに太陽光と同程度の弱い励起光、つまりレーザー光などの強い励起光を使わなくてもUCが可能となった。さらにこの動的エキシトンを用いたUCの動作原理の解明に向けて、電場依存性測定から、UC発光の起源が光生成電荷由来であることを明らかにできた。 これらの研究成果は、既に学術誌で掲載されたもの、もしくは投稿準備中である。このように本研究は期待以上の成果が得られており、さらに今後の研究の進展が大いに期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果で、動的エキシトンを利用したフォトンアップコンバージョン(UC)が光生成電荷由来であることを明らかにした。今後はさらなる原理解明を進める。その中でも特に界面で動的エキシトンを介して生成する三重項励起子の生成機構と、生成後の時間的、空間的ダイナミクスを明らかにする。まず三重項励起子の空間的な広がりについては、UCを実現する有機半導体界面の近傍に、三重項励起子捕捉材をドープすることで明らかにする。これにより、界面近傍の具体的な空間領域に存在する三重項励起子の分布が明らかにできる。さらに三重項励起子の時間ダイナミクスについては過渡吸収分光測定などで明らかにする。これらに加えて、磁場依存性測定や温度依存性測定なども組み合わせ、動的エキシトンを利用したUCの動作機構を詳細に解明する。
|