研究領域 | 次世代アストロケミストリー:素過程理解に基づく学理の再構築 |
研究課題/領域番号 |
21H05418
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大下 慶次郎 東北大学, 理学研究科, 助教 (40373279)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | イオン移動度質量分析 / イオンー分子反応 / 炭素クラスター / 負イオン / アセチレン / 異性体分離 |
研究実績の概要 |
本研究では、温度100-300Kの気相における負イオンと分子との反応速度定数の温度依存性を求めるため、自作の温度可変イオン移動度質量分析装置を用いてイオン-分子反応を観測する。特に炭素クラスター負イオンとアセチレンなどの炭化水素分子との反応により、炭素-炭素結合が生成する反応(炭素鎖成長反応)に着目した。本研究課題の初年度にあたる令和3年度は、鎖状および環状構造をもつ炭素クラスター負イオンの生成と、イオン移動度質量分析を用いた構造異性体分離実験を行った。 固体炭素へのレーザー蒸発とパルス分子線を組み合わせた自作のイオン源を用いて、炭素クラスター負イオンを気相に生成した。ヘリウム緩衝気体で満たされたイオンドリフトセルを用いたイオン移動度分析により、炭素クラスター負イオンの構造異性体を分離した。異性体が分離されたイオンを飛行時間型質量分析計を用いて質量選別して観測した。 イオンドリフトセルのヘリウム緩衝気体の温度298K、圧力0.803Torrにおける炭素クラスター負イオン(Cn- (n=5-28))のイオン移動度質量分析の結果、炭素原子数n=5-15では鎖状構造が観測された。さらにnが13以上では一つの環からなる単環構造、n=24,26,28では二つの環で構成される複環構造が観測された。n=13,15では鎖状と単環構造をもつ異性体が共存し、これらを明瞭に分離して観測することができた。今回観測されたサイズ分布の傾向は先行研究とほぼ一致した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の初年度である令和3年度は、炭素クラスター負イオンとアセチレンなどの炭化水素分子との反応観測に向けて、気相における炭素クラスター負イオンの生成と、イオン移動度質量分析を用いた構造異性体分離実験を行った。その結果、鎖状構造、環状構造をもつ炭素クラスター負イオンの構造異性体を明瞭に分離して観測することができた。異性体のサイズ分布は先行研究とほぼ一致した。環状構造をもつ炭素クラスター負イオンの反応研究は報告例が無い。次年度は鎖状と環状の炭素クラスター負イオンを分離して反応実験を行う計画であり、その準備が今年度で整ったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
鎖状の炭素クラスター負イオン(Cn-)とアセチレン(C2H2)との反応は、n=2,4,6のクラスターサイズで2019年に先行研究があるが、環状の炭素クラスター負イオンについては報告が無い。環状の炭素クラスターイオンの炭素鎖成長反応は、C60フラーレンなど3次元的な構造をもつ分子イオンの生成過程の解明につながる可能性があるため、研究の重要性が高いと考えられる。今後はイオン移動度質量分析による異性体分離と反応実験を組み合わた観測を行う計画である。
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