研究実績の概要 |
本研究では、温度100-300Kの気相における負イオンと分子との反応速度定数の温度依存性を求めるため、自作の温度可変イオン移動度質量分析装置を用いてイオン-分子反応を観測する。特に炭素クラスター負イオンとアセチレン(C2H2)などの炭化水素分子との反応により、炭素-炭素結合が生成する反応(炭素鎖成長反応)に着目した。本研究課題の2年目にあたる令和4年度は、鎖状および環状構造をもつ炭素クラスター負イオンの構造異性体をイオン移動度質量分析を用いて分離し、アセチレンとの反応実験を行った。 固体炭素へのレーザー蒸発とパルス分子線を組み合わせた自作のイオン源を用いて、炭素クラスター負イオンを気相に生成した。ヘリウム緩衝気体で満たされたイオンドリフトセルを用いたイオン移動度分析により、炭素クラスター負イオンの構造異性体を分離した。異性体が分離されたイオンを飛行時間型質量分析計を用いて質量選別して観測した。さらに、ドリフトセルに導入するヘリウム緩衝気体に5%のアセチレンを混合した際の、炭素クラスター負イオンの異性体比の変化を観測した。 イオンドリフトセルに導入した5% C2H2/He緩衝気体の温度300K、圧力0.801Torrにおける炭素クラスター負イオン(Cn-)のイオン移動度質量分析の結果、炭素原子数n=6-15で鎖状構造をもつ炭素クラスター負イオンが観測された。さらにnが13以上では環状構造をもつ炭素クラスター負イオンも合わせて観測された。n=13,15では鎖状と環状構造を持つ構造異性体が共存し、これらを明瞭に分離して観測した。n=13,15の異性体存在比は、純ヘリウムを導入した場合に比べて、アセチレンを導入すると環状の異性体が鎖状に比べて相対的にイオン量が減少することが見出された。これは環状構造をもつ炭素クラスター負イオンが鎖状に比べてアセチレンとの反応性が高いことを示している。
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