研究領域 | 次世代アストロケミストリー:素過程理解に基づく学理の再構築 |
研究課題/領域番号 |
21H05424
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野口 高明 京都大学, 理学研究科, 教授 (40222195)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | TOF-SIMS / 導電体 / 有機結晶 / リュウグウ |
研究実績の概要 |
本年度は,九州大学総合理工学府のプラズマFIB装置 Thermo Helios Hydraに装着された時間分解型質量分析器(TOF-SIMS)を使って分析が可能であるかを,同僚の二次イオン質量分析器(SIMS)専門家伊藤准教授と検討した。彼の助言に従い化学組成が既知の単純な物質の測定を行うことに変更した。2種類の試料を用いた。1つは,SIMSのイメージング分析のテスト時に用いる,Si基板上にCuグリッドを貼り付けてAuコーティングしたものである。もうひとつは,BBOT C26H26N2O2Sの短柱状結晶をカーボンテープの上に分散させて,Auコーティングしたものである。これらの元素の二次元分布や質量スペクトルを測定した。 Cuグリッドのイメージングは二次イオンに陽イオンを用いることで得られた。このことから導電性の無機物質は主要元素のイメージング分析が可能であることが分かった。しかし,試料が回転軸に対して精密に垂直でないと検出効率が敏感に変化することも分かった。一方,有機物であるBBOTの場合は,Auでコーティングをしているにもかかわらず,H,C以外の二次イオン強度は非常に弱かった。チャージアップの可能性があるため電子銃(フラッドガン)も用いたが,スペクトル・像のどちらもほぼ改善しなかった。これらの分析後に,本研究申請前に作成した小惑星リュウグウ試料の厚さ約2ミクロンの板状試料から得られた質量スペクトルを検討した。主要元素にOとSiが存在することは分かるが,Mg,Fe,C,Hについてはごく弱いピークしか検出できていないことが分かった。以上の分析結果からプラズマFIBに装着されているTOF-SIMSは導電性試料の主要元素の分布を調べるには適するが,無機物・有機物が混在する不導体試料の分析とデータ解析を行うのは容易ではないことが推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように,プラズマFIBに装着されているTOF-SIMSが有効ではなさそうなことが明らかになったため,ダイナミックSIMSによるリュウグウ試料の分析を行うことに計画を変更しようとしている。野口はリュウグウ試料の初期分析チームにおいて,砂の物質分析班の班長として,リュウグウ試料の岩石鉱物学的特徴とともに,C型小惑星であるリュウグウの宇宙風化について,昨年6月より研究を行ってきた。その結果,リュウグウの宇宙風化においては,試料に最も多く含まれる層状珪酸塩の脱水分解反応が重要であることを見いだし,現在,著名国際誌に投稿中である。この結果を踏まえ,水素同位体分析に特化した伊藤准教授のSIMS分析を使って,初期分析で配布されている細粒なリュウグウ試料を使って,まずは重水素と水素比が測定できるかどうか,試料の分析を開始したところである。
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今後の研究の推進方策 |
6月以降,はやぶさ2試料の国際公募試料の配布が行われる。このはやぶさ2試料を用いて本研究を行う。プラズマFIBに取り付けられたTOF-SIMS分析は行わない代わりに,有機物の結合状態を原子間力顕微鏡-赤外分光器(AFM-IR)と,マシンタイムが配布されれば,走査透過X線顕微鏡を用いたX線吸収端微細構造分析(STXM-XANES)の2つの手法で測定すること,AFM-IRではOH基の強度分布を調べることに変更する。分析計画は以下の通りである。 (1) 京都大学のThermo Helios FIB-SEMを使って,配布されたリュウグウ試料より4試料切り出す。試料AとBはそれぞれ別のTEM gridに取り付けて,厚さ100-150ミクロンにする。それぞれ,走査透過電子顕微鏡((S)TEM)とSTXM-XANES分析に用いる。試料Cは厚さ100-150ミクロンまで薄くしてからFIB-SEM内でAu板上にPtデポで固定しAFM-IR分析に用いる。厚さ2ミクロンの板状試料Dを切り出し,AuあるいはSi板上にPtデポで固定しSIMS分析に用いる。(2) 試料Aを(S)TEM観察・分析する。マシンタイムが配分されれば,試料BはKEK-PFのcSTXM を用いてSTXM-XANES分析し,大気遮断でFe3+/Fe2+比を考慮した層状珪酸塩鉱物の二次元分布と各種有機物の官能基の分布を測定する。その後,九州大学の(S)TEMでEELS分析を行い,更に京都大学の(S)TEMで観察とEDS分析を行う。(3)試料Cは委託分析でAFM-IR分析を行う。有機物の分布と珪酸塩鉱物の分布を調べる。宇宙風化している部位の場合,OH基の分布に注目する。(4)試料Dは,できる限り大気に触れないようにSIMSに導入しD/H比の二次元分析と解析を行う。これらの結果から,宇宙風化による鉱物と有機物の構造変化を明らかにしたい。
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