研究領域 | 次世代アストロケミストリー:素過程理解に基づく学理の再構築 |
研究課題/領域番号 |
21H05429
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
井口 佳哉 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (30311187)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 星間分子 / 極低温気相分光 / 芳香族分子 / アミノ化 / 電子スペクトル |
研究実績の概要 |
宇宙空間には,多環芳香族炭化水素(PAH),フラーレン,ベンゾニトリル,シアノナフタレンなどの芳香族分子も多く存在していることが示唆されており,地球上の生命体の源となった物質の候補として注目されている。これらの分子,イオンを検出するための有力な方法として近赤外~可視~紫外領域の電子スペクトルの測定が挙げられるが,実験室での測定例が少なく,その同定には至っていない。本研究では,芳香族分子を含むイオン錯体について,気相状態での「反応物の光励起 →化学反応 → 生成物の安定化」のプロセスを,量子状態(電子・振動状態)を分離しながら電子遷移により観測することをめざす。これにより,宇宙の分子進化における多様性,特に芳香族分子や生体関連分子の存在や成り立ちを明らかにすることを目的とする。今年度は,星間においてその存在が予測されているアンモニウムイオンNH4+と芳香族分子であるbenzo-12-crown-6(B12C4)との間のコンプレックスの極低温気相分光に取り組んだ。NH4+-B12C4錯イオンを紫外励起しその解離生成イオンを検出した。解離生成イオンの収量を紫外レーザ光の波数に対してプロットしたところ,シャープな振電バンドをもつ電子遷移が観測された。またその解離生成イオンの質量スペクトルを観測し解析したところ,NH4+とB12C4の間でコンプレックス内化学反応が起こり,B12C4がアミノ化されている可能性が明らかとなった。これは,宇宙空間において芳香族分子とアンモニウムイオンNH4+の間で光化学反応がおこり,芳香族アミノ酸が生じる可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は,NH4+と芳香族分子であるbenzo-12-crown-6(B12C4)との間のコンプレックスの極低温気相分光に取り組み,その電子スペクトルの観測と解離イオンの同定に成功した。その結果,光励起にともないコンプレックス内化学反応が発生し,B12C4がアミノ化されていることが示唆された。この結果は,宇宙空間において芳香族アミノ酸が生成するプロセスを観測している可能性がある。この結果については,J. Phys. Chem. A誌上で報告を行った。この様に,今年度初頭の目標であった,気相条件下でのNH4+と芳香族分子の間の光化学反応の検出に成功していることから,研究は概ね順調に推移しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は,アンモニウムイオンNH4+と芳香族分子の間で生じるコンプレックス内化学反応の中性反応生成物の直接観測に挑戦する。これまでの研究では,NH4+と芳香族分子の間の化学反応の結果検出された解離イオンには,アミノ基を含むものが見つかっていない。我々の装置(質量分析装置)では,化学反応の結果生じるイオンの生成物を検出することは可能であるが,中性の生成物の検出は困難であった。そこで2022年度は,この中性の生成物の検出を行う予定である。検出は多光子イオン化法によって行う。アンモニウムイオンNH4+と芳香族分子を紫外レーザによって電子励起し,コンプレックス内化学反応を誘起する。これから数100 ns以内に第2の紫外レーザを照射し,中性の生成物を多光子イオン化する。その結果生じるイオンを,飛行時間型質量分析計によって検出する。得られた質量スペクトルを解析することにより,コンプレックス内化学反応によって生成する,アミノ基を有する分子を同定する予定である。
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