極低温の星間分子雲では、分子イオンと中性分子との化学反応がその組成を決定づける主要過程とされている。環境温度の上昇は、衝突エネルギーの増加と反応分子の内部励起による、生成経路の分岐を含む反応性の変化を及ぼし、極低温における反応データからの外挿では理解できない反応結果をもたらす。星間分子雲の典型的温度である10Kほどから室温に至るまでの中間温度領域で、イオン・分子反応の機構がどのように変化するかに関する分子論的な解明が必要とされる。本研究課題では、イオン・分子反応に対して、量子状態と衝突エネルギーの同時制御機構を持つイオンガイド反応装置を用いた反応ダイナミクス研究を行った。 特定の振動・回転状態の分子イオンを生成するレーザー分光法をNO分子に適用して、NO+イオンと炭化水素系分子の反応を対象として、衝突エネルギー/量子状態依存性の相関を考察するための測定とともに、実験装置の改良を進めた。振動基底状態にあるNO+(v=0)は、極低温に対応する低衝突エネルギーほど高い反応断面積を示したが、NO+の振動励起が反応断面積を著しく低下させる測定結果が得られた。この結果は、反応温度は一様に反応性に影響するのではなく、自由度ごとに異なる機構が作用していることを示している。本研究課題で目的とした分子論的解明には、これらの依存性の相関測定に、より高い定量性が必要であった。多段階のイオンガイド部分の増設は低速イオンの輸送制御に有効であり、振動励起エネルギーと同程度以下の衝突エネルギー条件での測定を可能とした。一方、エネルギー分解能を衝突エネルギー幅は、本装置の長所である光イオン化による空間電荷効果に制限されていた。本測定装置を幅広い星間化学反応系に適用させるとともに、低密度でのイオン生成によって高分解能化仕様とするために、RF貯蔵式のイオン源を製作した。
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