ダークマターは宇宙の物質密度の8割を占めており、この正体を解明することが現代物理学の最大の課題である。ダークマターの候補となるモデルは様々提唱されているが、いくつかのモデルは銀河スケールにおけるダークマター密度分布に大きな影響を与えることが知られている。特に矮小銀河におけるダークマター密度分布は、モデルに依ってその中心構造が大きく異なることが理論予言されており、その密度分布の正確かつ詳細な理解がダークマター正体解明への鍵となる。 ダークマター密度分布と速度分散非等方性の縮退は、矮小銀河ダークマター密度分布決定の主な不定性となっている。この縮退を解くため、速度分散非等方性に敏感である視線速度分布の高次モーメントを考慮した動力学解析モデルの構築を行った。具体的にはジーンズ方程式に基づいて視線速度の分散と尖度を理論計算し、実際の観測から得られるそれらと比較した。本年度では銀河系矮小楕円体銀河の観測データに適用し解析を行ったところ、速度分散非等方性の決定精度が向上し、先に述べた縮退が弱くなることが明らかになった。本研究結果は、現在論文にまとめている段階である。 一方、すばるPFSでの観測に向けた模擬データ作成と動力学解析では、これまで矮小銀河以外の星の影響を考慮していた。本年度は、それ加えて矮小銀河に存在する連星系の視線速度分布への影響や潮汐効果の動力学解析への影響も考慮した模擬解析を行った。具体的には、連星系の恒星質量や軌道周期をモデル化することで、連星系の視線速度分布を計算した。潮汐効果に関しては、それを考慮した高解像度銀河形成シミュレーションの結果を用いる。これらによって、より現実に近い観測データの作成が可能になった。 今後は、このデータに対して構築した動力学解析モデルを適用し、すばるPFSによって矮小銀河のダークマター密度分布の高精度決定が可能になることを示していく。
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