暗黒物質の標準理論として冷たい暗黒物質があるが、銀河やその衛星銀河の観測結果と矛盾があることなどから、別の暗黒物質モデルが提唱されていて混沌とした状況にある。その中で最近特に注目されているものに、超低質量暗黒物質粒子(個々の質量が10の-22乗ev程度の粒子)でFuzzy Dark Matter(FDM)と呼ばれている暗黒物質に着目し、この暗黒物質に関して新たな性質を見出した。具体的には、この理論に基づいて密度揺らぎを数値シミュレーションで発生させ、その時間発展を追跡して力学平衡状態に落ち着いた後の密度分布を詳しく調べた。そして、この暗黒物質ハローの密度分布が中心部のソリトンコアと外側のハロー部に分けられ、後者の密度分布に有意な分散が存在することを発見した。このことから、中心のコア質量と外側のハロー質量との間に一定の分散があり、先行研究で出された分散がない関係式を変更する必要があることを見出した。この結果は、既に学術雑誌の論文として発表している。 さらに、FDMだけでなく他の暗黒物質モデルも含めた理論予想を検証するために、実際の恒星系の運動の観測からどのように暗黒物質ハローの分布を引き出すかが重要となる。本研究では、これまでによく用いられてきた2次のジーンズ方程式をさらに発展させて、高次である4次の速度モーメントを使った解析方法を開発している。この方法を用いることによって、これまでの2次モーメントである速度分散を用いた解析で直面していたモデル内の縮退を解くことができ、より正確な暗黒物質ハローの分布を導出することができる。実際、この方法は高次の速度分布が得られるような精度の高い観測データに対して適用できるもので、今後すばる望遠鏡を用いた観測プロジェクトにて利用されるべく開発を進めている状況である。
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