研究領域 | ダークマターの正体は何か?- 広大なディスカバリースペースの網羅的研究 |
研究課題/領域番号 |
21H05450
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 純一 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 教授 (80376699)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | Dark matter / Dark photon / Axion like particle / ATLAS / LHC |
研究実績の概要 |
スイス・ジュネーブにあるCERN研究所の大型ハドロンコライダー(LHC)を用いたアトラス実験のデータを用い、2つの質量領域においてダークマターの候補である「アクシオンタイプの新粒子(ALP)」(質量=数100GeVオーダー)、および、「ダークフォトン」(100MeVオーダー)の2つの新粒子を探索した。 前者はLHCを光子・光子コライダーとして利用し、2017年に取得したデータ14.6fb-1から光子・光子->ALP->光子・光子というプロセスを用いて研究を行った。信号モデルのシミュレーションデータの詳細なチェックと信号事象作成、実データを用いて完全にデータ駆動な背景事象見積もり手法を研究開発を行った。また、系統誤差に関する研究も開始した。これらの研究を日本物理学会で報告した。 後者は2015-2018年の140fb-1の陽子・陽子データを用い、ダークフォトン(主に17MeV-400MeV程度の質量)が2つの隣接した電子対に崩壊する事象の探索を行ってきた。検出器ではこの電子対が1つの塊として観測されるため、レプトンジェットと呼ばれる。1つの事象に2つのダークフォトンが存在する現象をターゲットとしているため、2個のレプトンジェットを要求するような事象選別を研究した。レプトンジェットは既存のトリガーのシグニチャそのものに一致しないため、どういったトリガーを使うのが最適であるか、という研究から開始した。また、共同研究者であるイタリアチームと解析フレームワークの開発を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ALP探索については、ALPの信号の検証・準備が想定以上にかかっている。LHCを光子・光子コライダーとして利用するための理論的なサポートが多くなく、特定のグループの動向に大きく依存していることが一因である。我々はそのグループと密に連絡をとり、信号の準備を行ってきたが、それでもやや遅れている。 ダークフォトン探索については、研究実績でも述べたようにトリガーの選択がシンプルではなく、その詳細なチェックに時間を要した。ダークフォトンの質量によって、電子対が1つのクラスターにみえる状況から、質量が大きくなるにつれて徐々に分離されていくことからくる困難さで、信号事象獲得の効率との折衷案を決めるのに時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
ALP探索については、データ駆動な背景事象見積もり手法の開発を完了させる。並行して系統誤差の理解を進める。特に、前方検出器に由来する系統誤差、あるいは、その要因となる検出器の詳細な理解に向けた研究を行う。発見感度等を見積もる統計手法を確立し、最終結果まで得る予定である。いくつかのATLAS実験グループの承認が必要なため、余裕をもって進める。 ダークフォトン探索については、さまざまな分布をチェックしながら、きちんとした感度予想を行う。主な背景事象のプロセスについては、その原因がフェイク由来となるレプトンジェットの場合、特にモンテカルロシミュレーションデータの信頼性が低いため、データを用いることでより適切な評価ができるような手法を開発する。
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備考 |
ALP探索の研究を行っている舘野氏(博士課程の大学院生)は日本物理学会学生優秀発表賞を受賞した。
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