研究領域 | ダークマターの正体は何か?- 広大なディスカバリースペースの網羅的研究 |
研究課題/領域番号 |
21H05459
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田代 寛之 名古屋大学, 理学研究科, 特任准教授 (40437190)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | ダークマター / 構造形成 / 電波天文 / 宇宙マイクロ波背景放射 / 原始ブラックホール / WIMP |
研究実績の概要 |
本研究ではまず、ダークマターとして有力なモデルであるWeakly Interacting Massive Particle (WIMP) と原始ブラックホール (PBH)の混合モデルの宇宙論的観測からの検証の研究をおこなった。 この混合モデルでは、PBHの存在によりWIMP粒子を多数含む超コンパクトミニハロー(UCMH)が形成され、そこではWIMPの対消滅が盛んに起こることが期待されている。そこで、このUCMHでの対消滅率を求め、対消滅による高エネルギー光子が宇宙の熱史へ与える影響を調べ、PBHの存在量によっては宇宙に存在する元素を電離する時期(宇宙再電離)を早めることがわかった。この宇宙再電離時期は宇宙マイクロ波背景放射(CMB)や宇宙論的21cm線の観測により特定可能である。そこでCMB観測とPBHの存在量に依存した宇宙再電離期の理論予言を比較することでWIMP-PBH混合モデルにおけるPBHの存在量に制限を得ることができた。その結果、WIMPダークマターが存在する状況ではPBHがダークマターの総質量に占める割合は非常に限られていることを明らかにした。この結果は2本の学術論文にまとめられて発表されている。 またダークマターがつくる銀河スケールよりも小さい構造であるミニハロー(MH)の存在量についての制限の研究もおこなっている。この研究ではミニハローの重力に囚われた高温の自由電子が放射する制動放射に注目した。MHの存在量と宇宙論的制動放射のシグナルの大きさの関連性を明らかにした。既存の宇宙論的制動放射の強さに対する制限と比較することで、ダークマター構造MHの存在量への新たな制限を得た。この結果も学術論文として既に公表されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は本課題研究における一つの目標であるWIMPダークマターに関連したモデルの宇宙論的制限、具体的には有力なダークマター候補であるPBHとの共存シナリオの可能性について制限を加えることができた。WIMPダークマターが満ちた宇宙でPBHが存在するとその宇宙論的影響は無視できないものになる。本年は主にCMB観測との比較により制限を得た。同時にこの結果は本研究課題の主題である将来の21cm線観測によってさらに厳しい制限を得る可能性も示しており、さらなる追加研究の必要性を示すことになった。 ダークマターがつくる銀河スケールよりも小さい構造であるミニハロー(MH)の存在量についての研究もおこなった。この研究は当初の研究計画になかったが、ダークマターは宇宙の構造形成において重要な働きをしており、その構造の研究もダークマターの正体解明につながる。このMHの存在量は構造形成の種である原始ゆらぎの重力成長による結果である。ダークマターのモデルによっては、この重力成長に大きな差が現れる場合がある。そのため、本研究の成果を用いて新たなダークマターモデルの制限を与えることも可能である。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画にあるバリオンとわずかな相互作用をするダークマターモデルの検証の研究をおこなう。ここでは特にバリオンとダークマターの相互作用の存在により、宇宙の熱史がどのように変わるかを研究する。将来の電波観測、Square Kilometer Array (SKA) ではこの宇宙の熱史の詳細な進化史を明らかにすることができる可能性がある。そこでSKAによる、バリオンと相互作用をするダークマターモデルへの制限の可能性を調査する。 またこれに加えて研究の進捗状況によっては有力なダークマター候補であるaxion like particleの将来の宇宙論的21cm線観測による検証の研究も行う。
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