研究領域 | ダークマターの正体は何か?- 広大なディスカバリースペースの網羅的研究 |
研究課題/領域番号 |
21H05462
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
野海 俊文 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (30709308)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 弦理論 / 量子重力 / スワンプランド |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、量子重力の立場から暗黒物質の正体に迫ることである。特に、散乱行列理論を応用することで「暗黒物質と素粒子標準模型粒子の結合定数」に対する理論的下限を導出し、各暗黒物質模型を完全に棄却するための実験・観測の感度を決定したい。研究初年次である2021年度の成果は以下の通りである。 まず、本研究課題の採択決定前に予備研究として、素粒子標準模型における散乱振幅のユニタリ性を重力相互作用まで含めて精査した。興味深いことに、量子重力との整合性から「相互作用の統一」が自然に現れることを示唆する結果を得た。また、その過程では、ゲージ相互作用だけでなく、湯川相互作用に対しても弱い重力予想と類似の条件が得られるなど、手法の汎用性を期待させるものがあった。当該論文はPhysical Review Letterより出版された。 本研究課題の採択決定後は、この解析の暗黒物質模型への拡張を進めており、暗黒物質の候補の1つである暗黒光子模型の解析をこれまでに終えた。暗黒光子模型は、暗黒セクターに隠れたU(1)ゲージ粒子「暗黒光子」が存在するとする模型で、暗黒光子と(標準模型の)光子の運動項が混合する。暗黒光子探査では、この混合結合定数に対する実験的上限値が日々更新されている。それに対し、本研究では「重力の紫外完備化」に関するいくつかの仮定のもと、混合結合定数に対する理論的下限値を導出した。得られた下限値は暗黒光子の質量に大きく依存し、特に電子より軽い質量を持つ暗黒光子模型は、本研究結果とこれまでの実験結果を合わせると棄却される。現在、この結果について論文執筆を進めている。 本解析の他の暗黒物質模型への拡張や、解析で用いた理論的仮定の精査を今後進めたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の採択決定前に予備研究として素粒子標準模型の解析を行なったが、その結果自体が大変興味深く、Physical Review Letterより出版された。暗黒物質模型以外の素粒子論・宇宙論への応用や今後の発展を期待させる成果であり、これは当初計画の期待以上の成果と言える。また、当初計画にある暗黒光子模型の解析も順調に進んでおり、論文執筆の段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
まずはじめに、これまでに行った暗黒光子模型の解析に基づいて論文を執筆し、発表する。その後は、当該研究領域の他のメンバーとも連携し、WIMPやアクシオンなど他の暗黒物質模型の解析を進める。それと並行し、本解析で用いた理論的仮定をRegge理論などの立場から精査したい。
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