本研究では強い電子相関の効果によって絶縁化した分子性結晶の表面に、光によって分極を制御できる光反応性の分子膜を修飾した「光駆動型FET」を中心対象として、結晶表面で発現する二次元電子の局在ー非局在ー超伝導転移の機構解明や、分子性結晶の表面における空間反転対称性の破れに起因する特異な超伝導物性、さらには非相反伝導などの新規な物理現象の開拓を目的として研究を行う。
昨年度の実験において、磁場が二次元表面に平行な場合は24テスラの磁場中においても超伝導を完全に抑制することはできないことが明らかになった。この結果を踏まえ、今年度は、50テスラ級のパルス強磁場を用いることにより、低温での超伝導上部臨界磁場の決定を行なった。その結果、低温での上部臨界磁場は約35テスラであることが明らかとなった。この値は超伝導転移温度(約10ケルビン)から予測されるゼーマン効果による臨界磁場(パウリ極限)を大きく超えるものである。このことは、結晶表面における特異な超伝導状態が、スピン軌道相互作用の小さい分子性物質においても実現していることを示す重要な結果である。
さらに、超伝導転移の近傍において電気抵抗の非相反性測定を行い、超伝導転移に起因する非相反抵抗の増大を観測した。この結果も、スピン軌道相互作用によってスピン偏極したフェルミ面が超伝導の起源となっていることを示すものである。これらの実験結果により、この系におけるスピン偏極したフェルミ面の存在が示唆される。
|