電子共役の概念と電荷の非局在/局在性は密接にかかわる。一方、分子性固体の電荷(電子・正孔)伝導では、電荷-フォノン相互作用が重要な役割を果たす。しかし、電荷の非局在/局在性とフォノンとの相互作用は、関係するはずなのに全く無視されてきた。本研究では、代表者が開発してきた低エネルギー逆光電子分光法により、電荷の非局在/局在性と電荷-フォノン相互作用の問題に挑戦した。 電荷の非局在/局在性については、移動度が高い=非局在性が期待されるペンタセン、移動度が低い=局在性が予想されるC60、銅フタロシアニンを取り上げ、電子分極エネルギーを精密測定した。ボルンの式から電荷の非局在半径を見積もったところ、すべての物質について1分子の大きさになることが分かった。分子による違いを排除するため、高移動度有機半導体の代表であるルブレンについて、電荷が非局在化するとされる結晶性薄膜と、局在化するとされるアモルファス性薄膜を作り分け、同様に分極エネルギーとその温度依存性を精密に測定した。どちらの結果も、電子がほぼ一分子に局在化していることを示した。これらの実験結果を合理的に説明できるモデルの構築を進めている。 多結晶ペンタセン薄膜について、HOMOとLUMOの両方のバンド幅の温度依存を精密測定し、電荷と分子内振動が結合したスモール・ポーラロンの存在を初めて実験的に示した。これに加えて、バンド幅の変化を定量的に説明する新たな部分ポーラロン理論(partially-dressed polaron)を構築し、バンド幅の温度依存性や移動度なども定量的に再現できることを示した。一方で、結晶軸のそろったペンタセン薄膜の角度分解低エネルギー逆光電子分光測定にも初めて成功した。新たな実験データからは部分ポーラロンモデルでも説明ができない新たな知見が得られつつある。
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