研究領域 | 高密度共役の科学:電子共役概念の変革と電子物性をつなぐ |
研究課題/領域番号 |
21H05476
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
俣野 善博 新潟大学, 自然科学系, 教授 (40231592)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | ジアザポルフィリン / モノアザポルフィリン / ラジカル / 多量化 / 磁気特性 / 酸化還元特性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、meso窒素上に置換基を持つ5-モノアザポルフィリン(RMAP)と5,15-ジアザポルフィリン(RDAP)のラジカルを合成する簡便な方法を確立し、得られた誘導体の構造―物性相関を明らかにした上で、高密度共役の実現へ向け、これらのラジカルをプラットフォームとして利用することである。2021年度は、主に以下の二つの課題に取り組んだ。 課題1.RMAP金属錯体の合成:アザテトラピリンの鋳型環化法を用いて、カチオン性RMAP亜鉛錯体を合成することに成功した。得られた錯体について、NMR、紫外/可視/近赤外吸収スペクトル、CV測定を行い、芳香族性、光物性、電気化学特性を調べ、対応するカチオン性RDAP亜鉛錯体と比較した結果、分子の対称性と電荷の影響がアザポルフィリン環の環電流効果や酸化還元特性に顕著に現れることが明らかとなった。また、鋳型環化を経由しないRMAPの新規合成法を開発することに成功した。 課題2.新規RDAPラジカルの合成:共有結合や配位結合を介してRDAPラジカルを連結することを目的として、RDAPを含むフェニレン架橋型ポルフィリン三量体の合成を行った。具体的には、ポルフィリンを置換基とするジブロモジピリンの鋳型環化反応を利用して目的物を合成し、NMR、ESR、紫外/可視/近赤外吸収スペクトル、CV測定を用いて得られた三量体の物性を調べ、参照系となる単量体の物性と比較した。その結果、両側のポルフィリン環が中心に位置するRDAPラジカルの磁気特性や光物性に与える影響は極めて小さいことが明らかとなった。 得られた研究成果について、国際会議での依頼講演を含む5つの学会発表を行ったほか、2報の論文として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は主に二つの課題に取り組み、meso窒素上に置換基を持つ5-モノアザポルフィリン(RMAP)カチオンの合成に成功した。また、RMAPカチオンの磁気特性、吸収特性、および電気化学的性質を詳しく調べ、meso窒素上に置換基を持つ5,15-ジアザポルフィリン(RDAP)ジカチオンの性質との違いを明らかにすることができた。特に、芳香族性については予想を超える差が認められ、分子の対称性の違いが環電流効果に大きく影響するという興味深い知見を手にしている。さらに、RMAPの簡便な合成法の開発にも成功し、現在その展開を行なっている。一方、共有結合を介したRDAPラジカル多量体を合成したが、得られた誘導体はフェニレンで架橋された直線状の連結様式を取るため、分子内におけるスピン-スピン間の相互作用は極めて小さいことがわかった。現在、配位結合を介した対面型のRDAPラジカル二量体を構築するため、環外周部にピリジル基やチアゾリル基を持つRDAPラジカルの合成に取り組んでいる。 2021年度もコロナ禍が続いたことで研究活動が多少制約された面はあったが、研究計画に沿う形で成果は着実に出ており、全体としては概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初掲げた計画通り複数の手法でアザポルフィリンラジカルの集積化を行い、得られた集積体の物性評価を行う予定である。2022年度については、大きく分けて二つの課題を設定している。一つ目の課題は、配位結合を介したラジカルの集積化であり、2021年度の成果を踏まえて、金属への配位結合を利用した高密度集積体の構築に挑む。ここでは、外周部に位置する配位子から中心金属への配位を利用することでアザポルフィリン環の高密度化が達成できると考えている。二つ目の課題は、アザポルフィリンの電子移動反応を利用したラジカルイオン対の形成である。この課題については、既に予備検討を行い、想定した反応が効率よく定量的に進行することを見出している。また、得られたイオン対が可視~近赤外領域に高い吸収特性をもつことや、多段階の酸化還元挙動を示すことも確認している。これらの課題で得られる集積体については、結晶状態での物性、特にスピン-スピン相互作用や電気化学特性について詳しく調べるため、領域内の研究者と協力しながら、結晶構造解析、ESR測定、磁化率測定、電荷移動度測定などを行い、目標達成へ向け研究を推進していく予定である。
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