研究領域 | 高密度共役の科学:電子共役概念の変革と電子物性をつなぐ |
研究課題/領域番号 |
21H05480
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 隆行 京都大学, 工学研究科, 准教授 (20705446)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | ナノグラフェン / ヘリセン / サーキュレン / 固体発光 / 反芳香族性 / 有機電界効果トランジスタ / マイクロ波伝導度 / 共結晶 |
研究実績の概要 |
置換基フリーナノグラフェン分子としてジベンゾジアザピラシレンを合成し、その固体状態での伝導特性を明らかにした。時間分解マイクロ波伝導度測定からは、1.3cm^2/Vsという大きなキャリア移動度が見積もられた。これはDFT計算から求められたHOMOにおける高い移動積分値(99.3meV)からも支持される。一方、一次元方向の効率的な伝導に比べ、二次元方向の移動積分は低く、実際にボトムコンタクト型OFET素子を作成して算出した移動度は10^-4オーダーであった。今後、分子設計の改良に加え、素子の作成条件も最適化することで置換基フリーナノグラフェンを用いた高移動度電子材料の開発が望まれる。 また、テトラアザ[8]サーキュレンを用いた研究としては、電子受容性分子との共結晶の作成を行い、フタルアルデヒド、フタロニトリル、9.10-ジシアノアントラセンとの共結晶が得られた。いずれも、電荷移動吸収帯を生じ、橙-赤色の結晶となった。パッキング形式はD-A交互積層のものが多く、分離積層体を得るための設計を最適化し、伝導性の評価を行う。[8]サーキュレンの周辺部のベンゾ骨格のない無置換型ヘテロ[8]サーキュレンの合成にも成功しており、その光物性および固体状態のでパッキング構造も明らかにした。 置換基フリー戦略がヘテロヘリセン類の合成にも適用可能であることを実証し、一連のアザ[n]ヘリセン類をこれまでに類をみない長さまで合成した。その構造解明、光物性解明をおこない、らせん状の共役系が非常に長い分子長においても依然として有効に働いていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
テトラアザ[8]サーキュレンと電子受容性分子との共結晶作成では、結晶構造に関する予備的な検討がなかったにもかかわらず、多くの分子との共結晶を作成しその構造を単結晶X線構造解析で詳細に解明することができた。また予想通りに電荷移動吸収帯をもつ有色結晶が得られたため、今後IRやESRやPXRD測定を系統的におこなうことでテトラアザ[8]サーキュレンを用いた水素結合性有機構造体(HOF)への展開が期待できる。 構造体を得るための新規骨格の創出も順調に進んでおり、特にベンゾ縮環構造のない無置換ヘテロサーキュレンの合成は有望である。置換基がないことで分子間相互作用は全く障害のない状態で働き、高密度なパッキング構造を形成することができる。二量体型のパッキング構造をとるケースでは分子あたり0.5電子酸化をおこなうことで混合原子価錯体が得られ、エレクトロクロミズム現象が期待される。反芳香族性の寄与の増減に呼応した光物性の変化もみられており、ヘテロ[8]サーキュレンの本質的な性質の解明が目前である。
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今後の研究の推進方策 |
置換基フリーヘテロナノグラフェンのパッキング構造と伝導特性に関する知見が得られてきたので、そうした結晶に対する外部圧力印加や電解酸化による固体物性の変化を調べる。測定条件の最適化を中心としつつ、必要があれば分子骨格のチューニングとそのパッキング構造の変化を調べて最適化を補助する。 ヘテロヘリセン化合物の開拓も進んでおり、HPLCを用いた光学分割をおこない、キラリティに依存した高密度共役構造の形成について検討すると同時に、その圧力応答性(バネ歪みによる効果)を調べることで高密度共役現象の本質に迫る。
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