今後の研究の推進方策 |
先進国における生産年齢人口の急速な落ち込みに伴って、3Dプリンターや産業用ロボットによる製造の自動化、計算やデータを活用した研究開発の効率化が喫緊の社会課題となっている。そこで、材料化学の観点から、機械工学とデータ科学の現状を眺めてみると、金属などの硬い材料を用いたクラシカルなロボット開発現場では、部材となりうる「材料」は出尽くしたと捉えられている。一方で、柔らかいソフトロボットの開発や低エネルギー消費のリサイクルに向いている有機材料は、今も著しい進化を遂げている。例として、異なるレーザー波長で光異性化と光重合を同時に起こすフォトクロミック分子は、3Dプリンターの圧倒的高速化と精密化を実現する光開始剤としてXolography技術を誕生させた(Martin Regehly, Stefan Hecht et al., Nature 2020, 588, 620)。これは光硬化樹脂に代表される、「光照射でモノを硬化する」技術の最先端である。一方、本研究の目的である「光でモノを軟化・流動化させる」技術は、特に接着剥離の用途で産業界からの期待が大きく、最近になって欧米や中国からも本技術に関する総説論文が出ている(Adv. Optical Mater. 2019, 7, 1900230; SmartMat., 2020, 1, e1012)。今後、世界的な潮流として、さらに光剥離技術は実用に近づいていくと予想されるが、そこで克服すべき課題として最後まで残るのは、やはりコストの問題であろう。本研究では新しい光応答メカニズムを採用することで光機能分子骨格FLAPの合成の効率化、大スケール化に成功した。しかし、さらに現実的な材料にするには、あくまでベースは従来の高分子を用いて、光機能分子を低濃度で組み込むだけで光機能を高分子材料に付与できるような、分子設計の次の「材料設計」が必要である。
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