研究領域 | 高密度共役の科学:電子共役概念の変革と電子物性をつなぐ |
研究課題/領域番号 |
21H05485
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
久木 一朗 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (90419466)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 水素結合 / 孤立電子対 / ピラジン / クラウンエーテル / 結晶工学 / 超分子化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、ヘテロパイ共役電子系の共役平面の外側に張り出した複数の孤立有電子対を、結晶工学的手法によって圧縮集積し、孤立電子対の重なりを経由した新たな高密度共役の発現とその学理の構築を目標とする。具体的には、ピラジン、2つのピラジン環が縮環したピラジノピラジン、および18員環内に事前組織化された孤立電子対をもつトリベンゾ[18]クラウン-6-エーテルを鍵構造として、それらの誘導体を合成し、分子間相互作用を巧みに操り集積構造を構築する。 本年度は、まず以下の化合物の合成について検討した。すなわち、(1)弱い反芳香族性を示す蛍光発光性の3回対称パイ共役分子であるヘキサデヒドロトリベンゾ[12]アヌレン (T12)の周囲に3つのピラジン環を縮環させた、トリスキノキサリノヘキサデヒドロ[12]アヌレン誘導体 TQ12、(2)3つのピラジノピラジンをベンゼン環に縮環させた3回対称性パイ共役分子であるドデカアザナフチレン誘導体 DATN、および(3) トリベンゾ[18]クラウン-6-エーテル誘導体3CT-18C6 である。 合成したTQ12のアヌレン環の芳香族プロトンはT12よりも低磁場側で共鳴することから、その反芳香族性は、縮環したピラジン環の影響でT12よりも低下することが分かった。また、分子間水素結合によってTQ12を自己集積化させると、2次元ヘキサゴナルネットワークが積層した低密度多孔質結晶を与えることが分かった。 DATNは低収率ながらその合成と単離および結晶化に成功し、その積層構造を明らかにした。今後、鍵となる縮合反応の収率の向上および再現性の確保に取り組む。 3CT-18C6は、多くの結晶化条件を検討した結果、ようやく単結晶を作成することに成功した。2次元ヘキサゴナルネットワークが積層し、内部にクラウンエーテルをボトルネックとする1次元チャネル空間を有する多孔質結晶を与えることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた分子群の合成がおおむね計画通り順調に推移しており、合成を完了した分子を用いた分子集積構造の構築、構造の同定、および物性の解明にも着手している。以上より、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2つのピラジン環が縮環したピラジノピラジン、および18員環内に事前組織化された孤立電子対をもつトリベンゾ[18]クラウン-6-エーテルの、種々の誘導体についてさらに合成を進めていくとともに、各分子の結晶化条件を検討することによって、孤立有電子対が圧縮集積された分子結晶の作成し、新たな高密度共役の発現へとつなげたい。一方、DATNは、その結晶構造を得ることはできているものの、合成過程における反応収率の再現性が確保できていないため、種々の誘導体へと展開できていない。来年度は、この問題点の解決にも注力する。
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