研究実績の概要 |
n個のベンゼン環がパラ位で連結した大環状有機化合物である[n]シクロパラフェニレン([n]CPP)は,その合成の難しさから長らく夢の分子とされていたが,2009から2010年にかけてJasti,伊丹,山子がそれぞれ独自の合成手法の開発に成功し,その湾曲したπ共役系に起因する特徴的な物性が明らかになってきた.一方,最近我々は三角形状の大環状六核金(I)-ビフェニレン錯体を経由した[6]CPPの新規合成法を開発した(Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 22928).本手法は,短工程かつ高収率で[6]CPPを得ることができ,金(I)錯体が再利用できるため,コスト・環境面でも有用な合成法である.本研究では,我々の開発した合成手法を応用し,ベンゼン環に電子供与性置換基(メトキシ基など)を導入した新規シクロパラフェニレン誘導体の合成し,その酸化状態を制御することで高密度共役の実現を目指している.本年度の研究においては,1) メトキシ基が複数個導入されたオリゴフェニレンビスボロン酸を合成し,これらと金塩化物錯体との錯形成によって大環状六核金(I)-ビフェニレン錯体が得られ,最後にPhICl2を添加することで環サイズの異なる5種類のシクロパラフェニレン誘導体の合成に成功した.これらの化合物は,電子供与性置換基であるメトキシ基によって無置換のCPPと大きく異なる電子状態のπ共役系をもつことが電気化学測定および量子化学計算から明らかとなった.2) 我々の合成手法を応用し,硫黄を含む高歪み有機化合物の合成に成功し,その分子構造と電子状態を評価した.
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