研究領域 | マテリアルシンバイオシスための生命物理化学 |
研究課題/領域番号 |
21H05509
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 卓見 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (20451859)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | NMR / 膜タンパク質 / GPCR |
研究実績の概要 |
代表的なGPCRであるアデノシンA2A受容体(A2AAR)における、リガンドの滞在時間を規定すると考えられるリガンド結合部位の構造を、NMR法により解明するための研究を行った。アラニン残基およびメチオニン残基のメチル基を選択的に標識したA2AARを、昆虫細胞に大量発現させて、精製した。得られたA2AARのNMRスペクトルを測定した結果、アラニン残基とメチオニン残基のメチル基に対応するシグナルが観測された。各種アラニン残基の変異体のスペクトルを測定して、野生型と比較することにより、A165, A265のNMRシグナルを帰属した。滞在時間が長いことが報告されている二種類のリガンド、ZM241385(逆作動薬)およびNECA (完全作動薬)におけるA165, A265のシグナルを帰属して、リガンドの違いに伴い大きく化学シフトが変化することを確認した。 次に、リガンドの滞在時間が最も大きく減少することが報告されている、E169Q変異を導入したA2AARのNMR測定を、ZM241385結合状態で行った。その結果、E169-H264の塩橋に近接するアラニン残基およびメチオニン残基の化学シフトが顕著に変化した。このうちA265は、構造上H264に隣接しており、その1H化学シフトはH264の環電流シフトにより決定されると考えられる。A265の1H化学シフトは、E169Q変異導入に伴い、顕著に高磁場シフトしていた。以上の結果から、E169Q変異体では、E169-H264の塩橋が形成していないこと、およびA265のNMRシグナルが塩橋の状態を反映することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、リガンド結合部位に位置するA2AARのアラニン残基およびメチオニン残基のNMRシグナルを観測・帰属した上で、滞在時間の違いに対応するNMRシグナルの変化を検出する予定であった。現在までに、これに対応するように、A2AARのリガンド結合部位に位置するA165, A265のNMRシグナルを観測・帰属した上で、滞在時間が顕著に減少するE169Q変異の導入に伴い、これらのシグナルの化学シフトが顕著に変化すること、特にA265の1H高磁場シフトがE169-H264の塩橋の状態の変化と対応することを示した。したがって、本研究は順調に進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
リガンドとの滞在時間が中程度に減少することが報告されているT256A変異を導入した状態、および滞在時間が1/10程度低いことが報告されているリガンドLUF5834が結合した状態における、A2AARのA165,A265のNMRシグナルを観測する。また、A2AARの活性化状態の影響を調べるために、逆作動薬結合状態と完全作動薬結合状態におけるA165,A265のNMRシグナルを観測する。得られた結果に基づいて、A2AARとリガンドの滞在時間を規定するメカニズムを考察する。
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