公募研究
生体分子のスマートな分子プロセスは、静電気力、分散力、水和力などの弱い非共有結合性の相互作用と形状認識を巧みに活用し、生命の恒常性を維持していた。これらのプロセスのマルチスケール解析は、系のサイズと解析時間の二つの軸に沿って行われていた。巨視的な視点では、バイオセンサー法やFRETによる結合定数と酵素反応速度の定量化が確立していた。微視的な視点では、原子間力顕微鏡(AFM)や光ピンセットによる1分子力学測定、高速AFMによる生体分子の動態観察が行われていた。しかし、生体分子の会合結合解離プロセスをナノ秒スケールで観察する手法は存在していなかった。分子シミュレーションは、官能基レベルで分子結合形成・反応のダイナミクスを解析することが可能であったが、検証には至っていなかった。また、シミュレーションでは、生体内のような分子夾雑環境の再現は難しく、孤立分子系での解析が主流であった。本研究の目的は、分子シミュレーションによるピコナノ秒スケールのダイナミクスと巨視的観察による結合・解離定数との相関を精密に解析することであった。さらに、分子夾雑状態の影響を定量的に評価するための手法を確立することを目指していた。その達成のために、申請者は高時間分解能単一分子力学測定技術を開発し、世界初のナノ秒スケールでの生体分子の会合結合~解離の一連のプロセスの解析を行った。結果として、分子夾雑状態の影響を含め、ナノ秒スケールの結合形成ダイナミクスと秒~時間スケールで観察される結合キネティクスを双方向に議論可能な理論の構築が可能となった。
1: 当初の計画以上に進展している
当該年度においては関連論文を3報発表することが出来た。よって上記の様に判断した。
分子夾雑状態の生体分子の機能への影響は明らかであるが、実験・理論双方において、定量的な議論は非常に少ない。また近年、分子夾雑状態は分子結合・反応速度へ影響に加え、タンパク質、DNAなどの生体分子の構造の安定化に関わっていることが明らかになってきているが、そのメカニズムは不明である。本研究は分子夾雑環境での分子間相互作用を高時間分解能かつ、定量的に評価可能な初めての手法となる。これにより、相互作用のダイナミクス、反応速度論における分子夾雑の定量的な取り扱いをおこなうための学理の確立を目指す。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 図書 (2件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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