数多くの高分子バイオマテリアルが医療機器を構成し、病態の改善、治癒、組織再生を担っている。本研究では、既存医療機器で用いられている各種高分子のうち、塊の状態で体内および体表面に存在するバイオマテリアルに着目し、「材料特性」と「材料‐生体(細胞)間の弱い相互作用」の関係を調べることを目的とし研究を進めてきた。 本研究課題では、人工血管、人工皮膚、縫合糸等に使用されているポリエチレンテレフタレート(PET)、コラーゲン、シルクフィブロインを選択し、分子量および組成を変化させない様々な条件でフィルムを作製した。得られた材料の表面および表面近傍の構造や結晶性などの特性を各種分光法により調べた。また、細胞やタンパク量との相互作用の指標となる濡れ性をフィルムの水接触角測定により解析した。得られたフィルムを用い、細胞とのミクロ環境での相互作用評価として、材料上に各細胞を播種し、接着挙動や遊走、増殖、また炎症について調べた。得られた結果より、高分子バイオマテリアル表面近傍の結晶性・構造が異なると、異なる細胞挙動が示され、結晶性の指標や特定の高次構造含有率と細胞挙動との間に一定の相関性が認められた。これらの評価により、生体との共生に寄与する高分子バイオマテリアル側の特性について新しい知見が得られたと考えられ、現行使われている材料のさらなる共生を誘導するパラメーター、また物質共生を達成するための新しい高分子バイオマテリアル開発のにも寄与するパラメーターの獲得につながると考えられる。
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